「土地と資源」の奪い合いから、経済が見える! 仕事に効く「教養としての地理」
地理は、ただの暗記科目ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問です。また、2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定しました。
地理という“レンズ”を通せば、ダイナミックな経済の動きを、手に取るように理解できます。地理なくして、経済を語ることはできません。
本連載の書き手は宮路秀作氏。代々木ゼミナールで「東大地理」を教えている実力派講師であり、「地理」を通して、現代世界の「なぜ?」「どうして?」を解き明かす講義は、9割以上の生徒から「地理を学んでよかった!」と大好評。講義の指針は、「地理とは、地球上の理(ことわり)である」。6万部突破のベストセラー、『経済は地理から学べ!』の著者でもあります。
アパルトヘイトはなぜ放置されたのか?
本日は、南アフリカ共和国で長年実施された人種隔離政策、アパルトヘイトについてお話しします。
南アフリカ共和国は人口が約5962万人と比較的多く(世界24位)、また1人当たりGDPは6001ドルです。自動車市場としては需要を取り込める水準にあります。
一般的な自動車普及の目安は、国民1人当たりGDPが2500~3000ドル。しかも、1000人当たり自動車普及台数は234台とまだまだ普及する余地は十分にありそうです。
次に南アフリカ共和国の輸出統計を見てみましょう。上位には、自動車、白金族(はっきんぞく)、機械類、鉄鋼、石炭、金(非貨幣用)、野菜・果実、鉄鉱石などがきます。機械類や自動車、鉄鋼などの輸出があることから、工業発展した国であることがわかります。
また鉄鉱石や白金族、石炭といった鉱産資源に恵まれている国ですね。加えて野菜・果実の生産も盛んなようです。南アフリカ共和国の鉱産資源の産出量の世界順位を見てみると、鉄鉱石は世界6位、白金族は世界1位、金は世界10位、石炭は世界7位、ダイヤモンドは世界6位です。
金の採掘は、1880年代のゴールドラッシュに起源を持ちます。1970年には世界の70%のシェアを誇っていました。
近年は、手が届くところの金を掘り尽くしたため、深く掘らないと金が採掘できなくなったという事情で産出量は減少傾向にあります。コスト高となって採算が合わなくなってきたということです。ちなみに、ダイヤモンドで有名なデビアス社の本社は、南アフリカ共和国にあります。
レアメタルとは何か?
白金族は聞き慣れない用語ですが、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金(プラチナ)の総称で、レアメタルの一種です。水と反応せず、酸や塩基に侵食されにくいという特徴を持っています。
白金族の産出は、ロシア、南アフリカ共和国、アメリカ合衆国、カナダ、ジンバブエで世界全体のほぼ100%を占めています。主な用途は、自動車触媒や電気・電子工業用と宝飾品です。
南アフリカ共和国はレアメタルの産出量が世界的に多い国なのです。一般的なレアメタルの定義は次の通りです。
・地球上に存在量が少ない
・技術的に純粋金属として取り出すことが困難
・精錬コストが高い
レアメタルは埋蔵に偏在性が大きい金属であり、アフリカ大陸南部、旧ソビエト地域、中国などに偏在しています。
このレアメタルに「アパルトヘイト政策が長年放置されてきた理由」が隠されているのです。