感染者はポツポツと出ているが、感染拡大を抑えている中国。政府は感染拡大が抑えられたとしても警戒を緩めるなという姿勢で、街中に「不必要な外出はするな、不必要な集まりはするな」といったスローガンが見られる。「警戒を怠らない」という姿勢は人々の生活を変えた。一体何が変わったのか。(フリーライター 吉田陽介)
ハイテンションで話すのは昔のこと
中国のバスの中
新型コロナウイルスの感染拡大によって、中国の人々の生活において2つの大きな変化があった。
一つは、人々が進んでマスクをしたことだ。今はバスや地下鉄に乗るとき、マスクをしていないと乗っているガードマンに「マスクをしてください」と注意される。
もう一つの変化は、人々がバスの中で静かになったという点が挙げられる。
筆者は通勤にバスを使うが、コロナ禍前は、朝からハイテンションで話す人が多く、朝に弱い筆者は「この人たち、本当に元気だな」とよく思ったものだ。しかし、今、バスの中は静かだ。もし以前のように、乗客たちが大きな声でぺちゃくちゃしゃべっていたら、飛沫が飛んで、感染リスクがぐっと上がっただろう。
では、“おとなしくなった”乗客たちは何をしているかというと、寝ている人もいるが、携帯の画面をじっと見ているのだ。スマホが出てきてからは、人々は画面に集中して隣の人と話すことはほとんどない。
これまでの携帯電話は、通話とショートメールしかできず、ネットに接続して動画を見たりするということはできなかった。そのため、「暇つぶし」の手段は「おしゃべり」だった。特に列車での長距離移動の場合、おしゃべりは唯一の娯楽だ。互いに知らない人同士でも自然と話が盛り上がる。筆者もバスや地下鉄、列車の中で声をかけられたことがある。大きな声で話す人に出くわす度に、「この人、大丈夫かな、会社の機密事項ダダ漏れじゃないか」とよく思ったものだ。
しかし、今は中国版ツイッター「微信(WeChat)」が広く使われているため、バスや地下鉄で大声で話す人は少なくなり、静かになっている。
列車での中でもスマホを見ている人が多い。筆者が高速鉄道で地方に旅行したとき、隣に座っている乗客はずっと携帯の画面を見ていて話しかけることはなかった。唯一声をかけられたのは隣の客がトイレに立つときに「ちょっとすみません。通してください」という程度だ。こうした変化は、コロナ前から見られたことだが、今はその傾向がより顕著になったと思う。
レストランの中でも、携帯を見ている人が多い。筆者は中国人の友人とレストランで食事したとき、1組の夫婦と思しきカップルはそれぞれ携帯の画面を見ていた。せっかく一緒に食べに来ているのに、味気ないなと他人事ながら思ってしまうが、コロナ対策の観点から見れば、理にかなっており、日本で提唱されている「黙食」を地で行っているようだ。