しかしコロナ禍前から、リモートワークで成果を上げている先進的な企業の事例を分析すると、リモートワークの仕事場所を自宅のみに制限している企業では、社員のパフォーマンスが上がらないことが明らかになっています。

 長年、リモートワークに関する研究を行っているハーバード・ビジネススクールのプリスウィラージ・チョードリー教授は、リモートワークは Work from Home (=自宅での仕事) でなくてはならないという企業の認識を、根本的に変える必要があると述べています。大切なのは、会社が働く場所を制限するのではなく、社員が自分の働く場所を選択できること、より正確に言えば、Work from Anywhere at Anytime(=どこでも、いつでも働く)を認めることにあります。

 Work from Anywhere at Anytimeを可能にするためには、オフィスのみで仕事をしていたときには有効であったビジネスプロセスを改め、一から変革することが必要になります。そしてこのビジネスプロセスの変革こそが、働く人を「場所」と「時間」から解放し、リモートワークの生産性を上げるための鍵となるのです。

 このことについてもう少し詳しく考えてみましょう。私たちの多くは、リモートワークにおいてもオフィスで執務していたときと同じように、会議や立ち話などの“リアルタイムのコミュニケーション”をベースとした仕事の進め方を特に疑問に思うことなく踏襲しています。しかし、リモートワークにおいてビジネスパフォーマンスを上げるためには、このビジネスオペレーションを、“非リアルタイムのコミュニケーション”に基づくものへと移行することが大事です。

 プロジェクト管理ツールを提供している米Basecamp 社は20年以上、リモートワークを採用している会社ですが、同社創立者のデイビット・ハイネマイヤー・ハンソンは以下のように述べています。

「真のリモートワークへの移行には非同期コミュニケーションを重視し、日常的なビジネスの進め方を根本から見直す必要があります。これは、会議優先からライティングへのカルチャー移行の際に企業が直面する最も困難な点です。ほとんどの新規のリモート企業は、リモートとはZoom を使った会議への移行のことだと思っています。しかしそれは、一般的な会議よりもさらに悲惨な結果をもたらしたのです。リモート企業として成功するためには、非同期のライティング文化に移行する必要があるのです」

 リモートワークとは、単に働く場所がオフィスからオフィスの外に変わることではありません。ビジネスにおけるコミュニケーションのあり方そのものを変えることで、人々が場所や時差にかかわらず仕事を遂行し、パフォーマンスを上げることに本質があります。

 したがってリモートワークにおいて大切なのは、働く場所に制限を設けて社員を縛ることではなく、パフォーマンスの最大化を実現するため「どこでも、いつでも」働くことを認めることにあります。リモートワークのプロセスを正しく構築することができれば、人々は最も効率を上げられる場所と時間帯で仕事を行うことができます。こうした働き方は、小さい子供を抱えている家庭や介護を必要とする家族がいる人に、より柔軟な働き方を提供することも可能にするでしょう。もし仕事のパフォーマンスをより上げられるのであれば、観光地でのワーケーションを制限する理由は全くないのです。