他分野の人たちとのコミュニケーションの極意とは
関根 医療と他分野のコラボレーションによって、健康と幸福の両立を実現していくわけですね。
横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター長、特別教授。東京医科歯科大学教授。シンシナティ小児病院オルガノイドセンター副センター長。1986年生まれ。横浜市立大学医学部卒業。2013年にiPS細胞から血管構造を持つヒト肝臓原基(ミニ肝臓)を作り出すことに世界で初めて成功。ミニ肝臓の大量製造にも成功。デザインやクリエイティブな手法を取り入れ、医療のアップデートを促す「ストリート・メディカル」という考え方の普及に力を入れている。著書に『治療では遅すぎる。 ひとびとの生活をデザインする「新しい医療」の再定義』(日本経済新聞出版)がある。
武部 そうです。さまざまな立場からイネーブリング・ファクターを何千何万と発見し、それらを社会に実装するために、コラボレーションは必須の取り組みであると考えています。そして、実装を進めていくためには、いろいろなプレーヤーが医療の世界に関わることができるプラットフォームをつくる必要があります。いわば、オープンメディカルプラットフォームです。
関根 オープンプラットフォームが求められるということは、逆にこれまでの医療の世界がクローズドであったことを意味するとも言えそうです。
武部 残念ながらそう言わざるを得ません。医療業界は、これまで外部のプレーヤーが自分たちの世界に立ち入ることをかたくなに拒否してきました。その忌避感のようなものは、現在でも相当根強くあります。ストリート・メディカルは、医療業界を内側から「開国」するためのチャレンジと言ってもいいかもしれません。
関根 医療業界以外の人たちとのコラボレーションを進める際に気を付けていることはありますか。
武部 クリエーターなど、こだわりを強く持っていらっしゃる人も多いですからね(笑)。私が気を付けていることはごくシンプルで、自分にできることと、できないことを明確にすることです。医療の世界には、「自分は何でも知っている」というスタンスでコミュニケーションを取ろうとする人が少なくありません。しかし、それでは実りある対話はできないと思います。できないこと、分からないことは謙虚に教えを請い、できること、知っていることについては相手に積極的に提供し、貢献していく。そんな態度が何より大事です。
もう一つ、コミュニケーション戦略を柔軟に変えることも必要です。有識者の委員会などでは、こちらからの提案が即時に否定されることがよくあります。そういうときは、いったん負けを認めた上で、持久戦に持ち込んで時間をかけて攻めていくことにしています。そうして、相手の考えをじわじわ溶かしながら、相手が転換しそうになるタイミングを待つ。そんなアプローチが有効だと考えています。