地理とは「地球上の理(ことわり)」である。この指針で現代世界の疑問を解き明かし、6万部を突破した『経済は地理から学べ!』。著者は、代々木ゼミナールで「東大地理」を教える実力派、宮路秀作氏だ。日本地理学会企画専門委員会の委員として、大学教員を中心に創設された「地理学のアウトリーチ研究グループ」にも参加し、精力的に活動している。2022年から高等学校教育で「地理総合」が必修科目となることが決定し、地理にスポットライトが当たっている。本連載は、ビジネスパーソンが地理を学ぶべき理由に切り込んだものである。

地名が語る「自然災害の教訓」東京と大阪の特徴Photo: Adobe Stock

「地名」と「災害」の意外なつながり

 東京の地形を見渡すと、東部は荒川が作り出した沖積平野が広がっていて、西部は武蔵野台地が広がっています。台地上はほとんどが平らですが、所々に谷を形成しています。

「渋谷」「四谷」「千駄ヶ谷」といった、地名に「谷」がつく街が好例です。また谷が多いことから、坂が多いことも特徴です。そのため「九段坂」「昌平坂」「三宅坂」といった坂を表す地名が数多く残っています。

 一方、大阪に目を向けると、「島」がつく地名が多いことに気づきます。「中之島」「堂島」「福島」など、かなりの数の地名が存在します。

 また「梅田」「野田」「芝田」といった「田」のつく地名も散見されます。他にも「川」「堀」「橋」「浜」といった、水辺にまつわる地名が多いのが特徴です。

 今から6000年前の大阪は、地球の温暖化にともなう海面上昇によって現在よりも5mほど海水面が高かったと考えられています。

 そのため上町台地が半島のようにプカッと浮かび、内側(東側)の湾(河内湾)と西側の海とに隔てられていました。こうした経緯があり、基本的に大阪は低地が多い地域です。

 地名というのはその土地の様子を教えてくれるものとして、大変重要です。そして地名は、先人たちが、災害を示唆するものとして後世に残してくれた教訓であると考えられます。

 特に「水」に関連した地名は、かつて湿地だった場所、また川が流れていた場所だったりします。