そうした中、都と江東区は2011年7月、豊洲市場受け入れの条件として「地下鉄8号線の延伸を含む交通対策」について合意。2018年度中に豊洲~住吉間整備の事業スキームを決定することとなった。

 ところが2019年3月になって都は、有楽町線延伸の「整備や運行は東京メトロが行うことが合理的」として、東京メトロが整備主体になることが望ましいという考えを表明したのである。

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 東京メトロが新線建設を否定している以上、従来のスキームのままでは延伸構想は暗礁に乗り上げてしまうことになる。そこで政府と都、メトロの利害を調整し、延伸実現に向けた新たな役割を再定義するために設けられたのが今回の小委員会であった。

 答申は「近年の対内直接投資を巡る国内外の動向や特定の株主の利害が経営に影響を及ぼす可能性」つまり物言う株主が新線建設に反対する可能性をふまえ、「東京8号線の延伸及び都心部・品川地下鉄構想の整備期間中には両路線の整備を確実なものとする観点から、政府と東京都が当面株式の1/2を保有することが適切である」として、当面は政府と都が株式の半分ずつを保有する方針を示している。この方針に従うのであれば、完全民営化は両路線の整備が完了する2030年代半ば以降ということになる。

 しかし新線建設という公共性のために政府と都の影響力が担保された半面、小委員会の議論は東京メトロと都営地下鉄の「一元化」問題には踏み込まなかった。東京メトロの上場、完全民営化に向けた課題に道筋がついた今だからこそ、運賃の共通化など真のサービスの一体化に向けた議論の進展にも期待したい。