一例を挙げると、心理学者のデイビッド・マクレランドの研究は、権力を強く欲するプロフェッショナルは昇進は早いが不祥事を起こしやすいことを示している。
しかし、権力へのニーズと達成へのニーズの両方が高い人は、そのような落とし穴にはまることなく、よりよいキャリアを築いている。達成をめざす意欲や個人としての卓越性の追求によって、権力を求める姿勢が社会化されて健全なものになるからである。
いいリーダーを選ぶには?
このことは、権力が有効に使われる組織をつくるためには、出世の意欲があるというだけでリーダーを選ぶのではなく、自分の仕事の質に関心があり、大切な価値のために下位のポジションでしっかりと学び、専門性を磨き、繰り返し貢献することを厭わない人をキャスティングすることが有効だと示唆している。
権力を上手に使う鍵は、自分が属する集団のニーズに焦点を合わせることだ。それが自然にできる人もいれば、そうでない人もいる。ジャーナリストのサム・ウォーカーは、ドワイト・アイゼンハワー(最も有能とは言えないかもしれないが、最も人気のあった大統領)は大統領選挙に自ら望んで立候補したわけではなかったと述べている。共和党が出馬を要請したから、義務として立候補したのだった。
権力を自分のための資源を蓄積する機会と見なすのではなく、自分の義務と結びつけて考えるリーダーは、ステータスや自己の証明や承認といった自分のニーズより、多くの人に利益をもたらす成果に焦点を合わせるようになる。
リーダーを選ぶときは、野心や上昇志向を判断材料として選ぶのではなく、他者の問題を解決するためのコミットメントによって選ぶべきである。
(本原稿は『スタンフォードの権力のレッスン』からの抜粋です)