もちろん、検察側は司法取引したような供述調書は作らない。だから山元次席検事が議員ら100人を不起訴処分とした際の記者会見で「被買収者から(刑事処分をしないという)取引や約束をした事実(司法取引を指す)はない」と言い放ったのは、そういう背景がある。

 筆者はなぜか地方支局時代、選挙違反事件に遭遇することが多かった。取材対象は「特捜部」ではなく、県警本部捜査2課になるのだが、その過程でよく耳にしたのが「立件のボーダーラインは2けた」ということだった。2けたは「10万円」を指す。

 もう1つ言うと、殺人や放火など、捜査1課は発生して周知となった事件を立件しなければいけないが、捜査2課は贈収賄や選挙違反など「当事者らしか知らない犯罪」を手掛けている。表に出ない事件なのだが、実は「ノルマ」があると聞いたことがある。

 贈収賄や選挙違反を年に1件以上、必ず挙げなければいけないのだ。ご存じの方も多いと思うが、地方の県警本部捜査2課長は、20代の警察庁キャリアで捜査経験のほとんどないエリートが派遣される。

 名目は「地元名士との癒着を見逃さないよう、地縁のないキャリアを派遣する」ということだが、捜査1課と違い「摘発したら手柄、なくてもミスはなし」というのが本当の理由だ。それでも本庁へ帰る前に「お土産」を持たせなければ、警察本部としては恥ずかしい。だから「2けた」を立てるのだという。

 筆者が知る限り「2けた」で立件されて執行猶予の判決はあっても、誰もが納得できる明確な理由がないのに「おとがめなし」(不起訴)は聞いたことがない。

 今回の事件、検審はどう判断するのだろうか。