この措置は、指標としてのTOPIXの連続性を維持する上でも、それ以上にTOPIX連動のインデックスファンドの保有者の利益の上でも妥当だ。ただ、「TOPIX落ち」を脅し材料にして一連の「ガバナンス改革」を押し付けたり、成長しない上場企業の尻をたたいたりしようとした「意識高い系有識者」(←もちろん皮肉だ)にとっては不満なことだろう。

「プライム落ち」が直ちに「TOPIX除外」を意味するのでない以上、プライム上場にこだわるか否かは、主としてメンツの問題に過ぎない。「名にこだわらずに、実を取ればいい」と考える冷静な企業経営者がいてもおかしくはない。

 まず、株式の保有構造には個々の企業に事情がある。また一般論として、独立した社外取締役を多く持つことや、取締役会に多様性を持たせることなどは良いことだし、気候変動に関連する情報の開示なども企業の社会的責任の観点から好ましいことだ。しかし、取締役に適当な人材がいなかったり、企業にとって手間やコストが過大であったりする場合に、「プライム」にこだわることが得策でない場合があるだろう。

 十分な収益を上げて大きな流通時価総額を持っている会社は、最上位ではないスタンダード市場に上場しているとしても、投資家から見て十分一流企業であるし、それなりの株価で評価されるはずだ。企業は収益やビジネスで評価されるのであって、市場区分によって収益が上がるわけではない。

「東証1部上場」のブランド価値は劣化
「一流企業」は取引所が決めなくていい

 過去には、「東証1部上場企業」が新卒学生の採用や金融機関との取引などでブランド価値を持っていた時代があった。今でも、小さな地方銀行などで「東証1部上場」、今後は「プライム上場」にこだわる会社があるかもしれない。

 しかし率直に言って、東証が「1部上場」を安売りしすぎて、今や2000社以上が1部上場銘柄となると、「東証1部上場」という事実に、かつてのようなブランド価値はなくなっている。これは、東証の経営戦略上の失敗であったかもしれない。

「プライム」とそれ以外の区分を強調する市場再編は、プライム上場企業に「一流企業」としてのブランド価値を持たせようとする東証の戦略なのだろう。けれども、「ブランド」の価値というものは一朝一夕に構築できるものではない。