コロナ対策の「野戦病院」作った英国は医療体制を重視

 コロナ対策の「野戦病院」の世界の事例を紹介したい。英国の「ナイチンゲール病院」である。英国は、昨年3月にロックダウンを実行したと同時に10日間程度で、国内の医療体制を新型コロナ用にシフトした。その時に全国に設置したのが、コロナ専用の仮設病院である「ナイチンゲール病院」であった(第277回・p2 )。

 英国の保健・社会福祉省は、この病院の設立費用に約2億2000万ポンド(約300億円、2020年6月10日換算)の予算を組んだ(Health Service Journal)。

 「ナイチンゲール病院」は、複数設置されたのだが、まず最初は2020年4月3日、ロンドンにて開院した。エクセル・ロンドン・コンベンションセンターという国際会議場に、当初は500床、感染拡大に応じて4000床に拡大できる、その時点で世界最大の重症患者収容施設であった( “Coronavirus:NHS Nightingale becomes world’s largest critical care unit”)。

 その後、バーミンガム病院、マンチェスター病院、ブリストル病院、ヨークシャー・ハロゲート病院、サンダーランド病院、エクセター病院など次々と開院した。

 これらは、主に中等症患者の治療に使用され、重症患者はナショナルヘルスサービス(NHS:国営の医療サービスを提供するシステム)の既存の病院で治療された(“Nightingale hospital in London ‘to treat less critical covid-19 cases’” "Nightingale hospital in London 'to treat less critical Covid-19 cases'")。感染拡大の「第1波」が去った6月には、すべてのナイチンゲール病院が待機状態となった。待機となった病院は、診察クリニックとして利用された。

 2020年10月、英国で感染拡大の「第2波」が発生し始めたとき、各地のナイチンゲール病院は再び新型コロナ患者受け入れの準備を始めた(“UK coronavirus live: Nightingale hospitals in Manchester, Sunderland and Harrogate on standby to take patients” )。11月には、エクスターとマンチェスターの2つの病院が患者を受け入れた(“Angry Tory MPs turn on Gove after‘overwhelmed NHS’claims”)。

 ワクチン接種センターとして営業を続けたロンドンとサンダーランド、診察用に使用継続となったエクセターを除いて、他のすべてのナイチンゲール病院は2021年4月までにいったん閉鎖となった(Health Service Journal)。

 結局、英国では、新型コロナの重症治療の増加分は、ほとんどすべて既存の病院の能力拡大で対応することができた。ナイチンゲール病院は、用意した病床をフルに使用することはなかったというわけだ。

 しかし、重要なことは、パンデミックの初期段階から、英国政府とNHSは、「医療体制」の確立を重要視していたということだ。

 英国政府は、患者の増加を科学的に予測し、既存の病院の負担増を軽減するための仮設病院を設置した。いかなる事態にも対応できるよう医療体制の構築のために、即行動したところが、日本との違いである。