新型コロナウイルスの感染が再び急拡大し、「第5波」の真っただ中だ。しかし、有効な手だてを見つけられず、いまだ「医療崩壊」に直面している。日本政府は当初、軽・中等症者を自宅療養とする方針を打ち出したが、批判を浴びた結果、軽症者を自宅療養とする方針に修正した。その方針を機能させるために、英国を参考にして今すぐ野戦病院を設立すべきだ。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
手詰まりのコロナ対策、今こそ「医療体制」の確立を
ワクチン接種が進んだ高齢者よりも、ワクチン未接種の50代以下に感染が広がっているため、菅義偉首相はワクチン頼りの姿勢を強めている。しかし、国からのワクチン供給が滞っているため、打ちたくても打てない現実に直面している10代~30代の若い世代も多い(朝日新聞2021年7月30日)。
結局、今の政府のコロナ対策は、酒類を提供する場合は休業、提供しない場合は時短営業という飲食店への要請などといった、国民への行動制限を呼びかけに終始。しかし、感染抑制に効果が見られず、手詰まり感が漂っている。
特に問題となっているのは「医療崩壊」の危機だ。日本は、欧米より多い世界一の病床数を持ち、欧米よりも圧倒的に感染者数が少ないにもかかわらず、コロナ用の病床が十分に確保できず、4度も緊急事態宣言の発令に追い込まれている(本連載第279回)。
これまで何度も医療崩壊の危機に直面してきたのに、一向に政府が有効な手を打てないことは、国民の大きな不安・不満となっている。「医療体制」の確立は、今すぐに取り組むべきだ。
ワクチン接種に、今すぐ劇的な効果を期待できない。しかし、軽・中症者の重症化を防ぎ、重症者が死に至らない医療体制を組めれば、国民は落ち着きを保てるのではないだろうか。
しかし、菅義偉政権は、「医療体制」の抜本的な改善に取り組むことなく、軽症者の自宅療養という新たな方針を打ち出した。だが、この方針を機能させるには、重症治療の病床を十分に確保することと、自宅で重症化した際に病院への迅速で確実な搬送を行うための方法の確立とセットになってなければならない。
私は、コロナ対策の「切り札」は、「自衛隊の野戦病院」の設置だと主張してきた(第275回)。再度、この提案をしたい。