次に、前述したような「インスタ映え」という魅力ができたことがある。中国でSNSが盛んになったのは2010年代からだが、特に「インスタ映え」を意識するようになったのは、やはりこの5~6年の傾向だ。中国人は「自撮り」も大好きだが、他の人があまり撮ったことがないレアな写真や、目新しいものが大好きだ。

 単なるカップアイスや棒アイスならインスタ映えはせず、自慢にもならないが、観光名所を形どったアイスができたことにより、アイスの存在価値が変わった。観光名所に出かけた際、わざわざ名所をバックにしてアイスを手に持ち、その写真をSNS上に投稿する人が続出するようになったのだ。

「もはやハーゲンダッツ超え」
背景には国産ブランド人気の風潮も

 なぜ、このようなコラボアイスが増えてきたのか、明確な理由はわからないが、2020年のコロナ禍が関係しているのではないかと考えられる。国内の移動や観光もままならなかった時期に、北京の故宮博物院が化粧品メーカーとタイアップし、故宮(紫禁城)の伝統的な建物をイメージするようなシックなデザインの「故宮口紅」を発売して大ヒットしたことがあった。

 これを機に、「そこに足を運ばなくても、そこにしかない限定のオリジナル商品をネットで買う」ことが流行し始めるようになった。アイスも同じような流れで、地方にある観光名所への支援策も兼ねて、地域限定のご当地ならではの商品が売り出されるようになった。2020年に中国で大流行したライブコマース(生中継のオンライン販売)などで、インフルエンサーがご当地アイスを取り上げるようになった影響も大きい。

 また、「国潮」(グオチャオ)ブームも関係している。国潮とは中国の伝統的なデザインなどを盛り込んだ商品のトレンドのことで、コスプレ感覚で人気の漢服(漢民族の伝統的な衣装)や「チャイボーグ」といわれて人気の化粧品など、中国人が開発した国産ブランドが流行している。

 主にZ世代の若者が「メイド・イン・チャイナ」の商品を好んで購入しているといわれており、伝統的な瓦の模様をあしらっている鍾薛高の高級アイスも「国潮」ブームをけん引している国産ブランドの一つ、と位置づけられている。これまで、中国で高級アイスといえば、ハーゲンダッツだったが、中国のSNSでは、「鍾薛高はもはやハーゲンダッツを超えた」「アイス界のエルメスだ」などと呼ばれており、自国ブランドへの信頼が厚い若者の間でより好んで選ばれる商品となった。これらの複数の理由により、中国人の間でアイスが大ブームとなっているのだ。

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
10段落目:猛牛→蒙牛
(2021年8月12日9:35 ダイヤモンド編集部)