創作活動を民主化する

宮本 それにしても2021年は「SF思考」がアツい! 6月に僕が共編著を務めた『SFプロトタイピング』(早川書房)が出て、7月には本書の他、SF作家の樋口恭介さんがSF思考を解説した『未来は予測するものではなく創造するものである』(筑摩書房)が刊行されました。これを機に、SF×ビジネスのムーブメントをガッと広げていきたいですね。

予算や昨対比に縛られない!ビジネスパーソンよ、「SF思考」を実装せよ藤本敦也(ふじもと・あつや)
三菱総合研究所 シニアプロデューサー

東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。ESADEビジネススクール(バルセロナ)経営学修士課程(MBA)修了。2006年、三菱総合研究所入社。同社シニアプロデューサー。専門は、新規事業開発、組織戦略(経営統合等)。ブレインテックなどの先端技術を活用した新規事業から、ペットビジネス、シニアビジネスなど多岐にわたるコンサルティングサービスを現場・ユーザーを強く意識し展開。技術・マクロトレンドと人・社会の変容を織り交ぜた、未来社会像構築も多数実施。株式会社ワイズポケットの創業メンバーでもある。

藤本 何かが世に広まるには、ノウハウを出し惜しみせずオープンにすることが大事です。トヨタ生産方式である「カンバン方式」が世界に広がったように、SF思考も「未来創造の生産方式」として世界に広がるポテンシャルがあると思います。何しろ『SF思考』には、現時点の私たちのノウハウを全て詰め込みましたから。

宮本 本書を読めば、SFを誰でも作れるようになりますからね! もちろん、本格的なSF小説がいきなり書けるわけではありませんが、「自分もSF作家だ!」というマインドの人が増えれば、ビジネスの未来はもっと面白く描けると思うんですよね。みんなが未来社会づくりの当事者になるには、みんなが「SFの語り部」になるのが早い。

藤本 ええ。創作活動というものを民主化したことは、本書の一番の意義かと思います。

 あと、コロナ禍のような制約下でも成果が出せるのも大きい。クリエーティブな活動はフェース・ツー・フェースじゃなきゃ、という価値観はまだ根強いのですが、本書で紹介したワークショップは、全てオンライン前提で設計しています。そして実際に、オンラインの方が現実の序列に縛られず成果が出しやすいし、議論が苦手な日本人でもとっつきやすい。そういう意味では世界初だし、日本向きのメソッドといえるんじゃないでしょうか。

宮本 そもそもSFの社会活用には小松左京という偉大な先人がいます。実は日本はこの分野の先進国だったんですよね。この本が再興のきっかけになれば!

藤本 日本には今も優れたSF作家さんが多いですしね。しかし、それをビジネスに接続する人材はまだまだ少ない。SF思考を広げるボトルネックになるとしたらそこじゃないでしょうか。個人的には、ここを打破するために「アンラーニング」が大事だと思っています。

宮本 アンラーニング?(その場でググる) 「学習棄却」ですか?

藤本 そうです。経験のリセットといってもいいかもしれません。変化の激しい時代ですから、人も組織も、過去の成功体験に固執するのはよくありません。新しい場で価値創造をしたいなら、過去をアンラーニングしなくちゃ始まらない。自分の中で「ビジネスってこういうもの」「自分ってこういう人」という思い込みをいったん捨てる必要があるんです。先日閉幕したオリンピックでも「過去の思い込みを捨てれば、新たな未来が見えてくるのでは……」と感じたりしました。

宮本 そうですね。今回は機能不全に陥った感がありますが、かつて小松左京がコンセプト作りに関わった1970年の大阪万博がそうだったように、オリンピックのような場って、本来はSF思考的なアプローチが有効なはずですよね。

藤本 例えば「オリンピック・パラリンピック」のような時事ネタから前向きにSF思考を試すとすれば、宮本さんならどうします?

宮本 軽薄に語りたくないテーマではありますが、僕なら、まずオリ・パラの概念を要素分解して、スポーツ、多様性、共生、平和の祭典みたいな言葉を自分のテーマに関連する言葉と接続していきます。

藤本 そこに『SF思考』で話題になった「パーパス」を掛けて「パーパススポーツ」とか?

宮本 そんな感じですね。後はその言葉がどういう意味を持ち得るか、周囲と議論します。いろんな角度から意見を出し合って、チームのみんなが腑に落ちるまで磨かないといけない。SF思考は多様性を生かす思考ですから。

藤本 一人一人が発想を飛ばした後、チームで現実に着地させる――。SF思考の面白さはそこですよね。普段の仕事でも、会社から与えられたテーマにSF思考でみんなの思いを乗せれば、どんどんワクワクするビジョンが生まれてきそうです。