飲み会よりワークショップを
宮本 われわれとしてはSF思考を色んな会社で活用してほしいわけですが、まだビジネスにSFを持ち込むことに抵抗のあるビジネスパーソンは多いかもしれませんね。
藤本 これまでの経験からいうと、遠い未来を展望しなくちゃいけない事業に携わっている人は割とスムーズに受け入れてくれましたね。どんなに知恵を絞っても、現在を起点に考えている限り、目の前の課題しか出てきません。オペレーションがまずいとか、人件費がかかり過ぎるとか……。SF思考は、その課題をつぶした先のビジョンを描く武器になります。
部門間の齟齬の解消にも使えます。例えば研究開発部門って、いってみれば未来を創造するのが仕事ですよね。でも短期的にはお金を食ってるだけに見えがちだから、だいたい事業部門や経営管理部門と仲が悪い。投下リソースに対するコスパは? 研究のメリットは? と詰められてもうまく説明できないからです。SF思考で未来のビジョンをしっかり描ければ、ここのコミュニケーションがすごくスムーズになります。
宮本 SFプロトタイピングは大企業向きで自分には関係ないって思ってる人もいると思うのですが、特にどういう人やどういう業界がSF思考に適していると思いますか?
藤本 規模は関係なくて、要は10年後、20年後の未来を考えたいかどうかですよね。その動機も極端にいえば2方向あって、一つは、市場がシュリンクしまくっている業界で、存続のために新しいことをやらなきゃいけないという危機脱出パターン。もう一つが、リソースに余裕があるから新しいことにチャレンジできる先駆者パターンです。どちらの場合も、本気でやるならライトパーソンを正確に刺さないといけない。多くの場合は経営陣ですが、新規事業推進室とか経営企画室あたりの場合もあります。
宮本 後は、最初は全社を巻き込んだりせず、対外的なビジョンとして打ち出すことも考えず、取りあえず社内の有志で小さく始めるっていうのでもいいですよね。
藤本 その通りですね。最初からいいものが出てくるわけでもないですしね。取っ掛かりとしてお勧めしたいのは、新卒採用や異動でチームがリフレッシュされる4月や10月の組織改編時に、飲み会の代わりにワークショップをやることです。飲み会カルチャーは廃れつつありますが、SF思考はオンライン時代の相互理解のツールにぴったりなんですよね。実際に企業でワークショップを実践すると、アウトプットの価値もさることながら「メンバーの考えがよく分かった」「チームビルディングの役に立った」っていう感想が多い。発想を飛ばして意見を交わすと、一人一人の個性がよく見えてくるんです。