転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。本書では、ビズリーチ急拡大の躍進力となったテレビCMプロジェクトについて詳報しています。ラクスルは当時、テレビCMの広告効果を数値で測定できる仕組みを確立し、「テレビCMは投資額が大きい割には効果が見えにくい」という常識を覆しつつありました。そのノウハウを惜しみなくビジョナル創業者の南壮一郎さんに伝えた松本恭攝(やすかね)社長に、当時の状況を振り返ってもらいました。(今回はインタビューの後編、聞き手は蛯谷敏)

■ラクスル松本社長インタビュー前編▶「ラクスル松本社長が解説「テレビCM、こうすれば費用対効果は一目瞭然!」」

ラクスル松本社長が断言!「テレビCMは博打じゃない。費用対効果は計算できる」ラクスルの松本恭攝社長

――ビズリーチはテレビCMによって一気に存在感を高めていきました。やはりスタートアップにとって、テレビCMの存在は大きいのでしょうか。

松本恭攝さん(以下、松本) そうですね。マーケティング投資をかけようとしたときに、ウェブ広告はどうしても検索クエリ(編集部注:ユーザーが検索窓に入力する語句)に上限があって、それが成長の限界になってしまう面があります。

 それ以上に早いペースで成長しようとすると、やはりウェブ以外のマーケティングチャンネルにもアプローチする必要があります。その中でやっぱり一番効果が見込めるのがテレビCMなんだと思います。

 我々がサービスを始めたときには、既に多くのスタートアップがテレビCMを打っていました。そうした会社を研究して、解説したような「差分分析」という手法を編み出したわけです。

――ラクスルのアプローチによって、「テレビCMは投資額が大きい一方で効果が見えにくい」、いわば「テレビCMは博打である」という考え方が覆ったわけですね。

松本 「テレビCMは決してブラックボックスではありません。むしろ効果を可視化して、数字を積み上げていくことができます」と明言したのは、我々のサービス「ノバセル」でした。

 テレビCMもウェブ広告と同じように、小さく投資して、費用対効果が見えるようになってから投資額を増やしていけると証明しました。それによって、テレビCMは、決して大枚を叩いても効果が見えづらい“一世一代の賭け”ではなくなったわけです。結果を見ながら運用できるようになったわけですから。そんな話は、南さんにもしました。

 現在展開している「ノバセル」は、「マーケティングを民主化する」というミッションを掲げていますが、それだもまだ、「テレビCMの費用対効果はブラックボックスだ」という印象を持つ利用者は多いですね。それを、「こうやって計測しながら投資すれば、デジタル広告と同じ運用ができます」と説明している段階です。最近ではようやく、スタートアップの中でも、テレビCMのすそ野が広がってきたように感じています。

――ノバセルも、世の中に存在する課題を解決するサービスだったというわけですね。

松本 自分たちは当たり前にやっているけど、世の中の多くの人は当たり前とは思ってないというような、認知のギャップがどこかに存在しないかという視点から生まれたサービスであることは間違いありません。

 実際、自分たちの中では、テレビCMはまったくブラックボックスではなかったんですから。

 先の分析手法を確立していたので、テレビCMのコストが高いと思ったこともなく、むしろリーチコストを考えると安いくらいだと考えていました。それは決して印象論ではなく、数値に基づいて判断した結果、そうだったということです。けれども意外に、世の中の人は、数字で判断していないということが分かりました。やっぱり多くの人が、印象で語っているんですね。その部分の解像度を上げる仕組みを入れていくと、実は世の中が変わるんじゃないかと思っています。

 ラクスルという会社もそうですが、自分たちにとっては当たり前のことだけれど、日本の多くの会社にとってはかなり斬新である、ということはまだまだたくさんあると思っています。

 南さんもそうですが、僕たちは日本企業ではなく、シリコンバレーのスタートアップからヒントを得て起業しているので、多くの日本の会社にとって斬新なことが、きっと実はたくさんあるんだと思います。それを広めたいという思いが、事業の基本姿勢にあるのかもしれません。

――松本さん自身は、そうした気づきはどこで得ているのでしょうか。

松本 人との会話から得ることも多いですが、自分が事業をする中で、驚くような体験をしたときも結構あります。「これってこんなに効率悪いの」とか「なんで、そんなことになっているの」といった驚きで、特にネガティブなケースは、事業につながりやすい傾向があります。

 そうしたアンテナを張っていると、日常的な会話の中から問題意識が広がってくることも多いですね。

――情報のアンテナを広く張っているんですか。

松本 意図的に張っているというよりも、好奇心ですね。起業家はみんなそうだと思いますが、どんな情報にも興味を持ちますよね。

――起業家同士の情報交換や交流も頻繁にあるのですか。

松本 ありますよ。やはり起業家同士の相談ごとが、一番理解できるので。テレビCMのときは、たまたま南さんが私のところに相談に来ましたが、普段は私から南さんに相談することが圧倒的に多いんです。

――南さんは経営者としてはどう見えていますか。

松本 『突き抜けるまで問い続けろ』の中で、南さんはとても繊細だと書かれていましたが、私から見ると非常に豪快で大胆な人だと思います。例えば、創業メンバーが一斉に経営から外れて新規事業に取り組むとか。打ち手一つひとつが規格外で、大胆です。本人の中ではすごく検証を重ねて、リスクを最小化しているとは思うんですが、社会実験のような壮大なことを、たくさんしているような印象があります。

 南さんからもらったアドバイスで一番覚えているのは、「組織がすべて」「採用に自分の時間の半分以上を割くべきだ」という言葉です。実際、アドバイス通りに実践してみたら、間違いなくよくなりました。

 やっぱり誰とバスに乗るのかは大事ですよね。ビジョンに共感して、能力の高いメンバーを自分で採用していくこと。それが経営者にとっては最重要事項なんだと思います。(談)