転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。本書では、ビズリーチ急拡大の躍進力となったテレビCMプロジェクトについて詳報しています。ラクスルは当時、テレビCMの広告効果を数値で測定できる仕組みを確立し、「テレビCMは投資額が大きい割には効果が見えにくい」という常識を覆しつつありました。そのノウハウを惜しみなくビジョナル創業者の南壮一郎さんに伝えた松本恭攝(やすかね)社長に、当時の状況を振り返ってもらいました。(聞き手は蛯谷敏)

ラクスル松本社長が解説「テレビCM、こうすれば費用対効果は一目瞭然!」ラクスルの松本恭攝社長

――ビズリーチ創業者の南壮一郎さんからテレビCMについての相談を受けたときのことは覚えていますか?

松本恭攝さん(以下、松本) 覚えています、覚えています。確か、2015年か2016年のころですね。当時、ラクスルがテレビCMによって成長を加速していたタイミングで、その時に、南さんから話があったと記憶しています。

 彼らもテレビCMを打とうか迷っていて、「ラクスルはどうやっているの」とふらっと南さんがオフィスに来て、話をしたんです。

 その時に話したのは、今、当社が「ノバセル」という名前で提供しているサービスの内容そのものだったと思います。テレビCMの効果測定をどのように実施して、その結果をどのように映像素材などに反映させながら広く展開していくのか。我々の経験を丸ごと話しました。

――実際には、どのような形でテレビCMの効果を測定したのですか。

松本 ひと言で言うと、「差分分析」という方法を使います。すなわちテレビCMを打っていない状態と、打った場合とで、どの程度売り上げが伸びたのかという差を測定するものです。

 ウェブ広告を例にとれば、グーグルやフェイスブックに広告を出したとして、クリックされて購入されると売り上げが1、増えますよね。しかし当たり前ですが、広告を出さなければ、この1は増えません。

 広告を出すことによって、それが1上がるのか、20、30と上がるのか。広告の効果を測定して、それを出さなかった状態と比較するのが、「差分分析」の肝です。

 実際に広告によって増加した売り上げを、広告宣伝にかけたコストで割り引くと、売り上げを1伸ばすためにかかる投資費用が見えてきます。この費用が把握できれば、今度はこの費用を何年で回収できるように予算を組めばいいのかという事業計画が立てられるようになります。

――売り上げを伸ばすために、広告にどの程度費用を投下すればいいかが分かるわけですね。

松本 事業会社なら、売り上げの情報を把握していない会社はありません。だとすると、平時の売り上げ情報を前提に差分を見ていくようなイメージですね。

 もう一つ、効果的なテレビCMを打つためのポイントとして当時お話したのが、「小さく始める」ということでした。

 例えば、東京でテレビCMを打とうとすると、一般には、1都7県のエリアCMになるのでリーチできる視聴者が多い半面、コストも上がってしまいます。一方で、地方でテレビCMを始めると、リーチできる視聴者は東京よりも少ないけれどコストは大幅に抑えられます。

 テレビCMの効果を測定することが目的なら、最初の母数は小さくてもいいので、できるだけコストの安い地方でテストをするといい。その中から、一番効果的なテレビCM、あるいは一番受けのいいテレビCMを検証したあと、大都市圏で展開するというステップを踏みます。

 そうすると、最初からテレビCMに1億円の投資をかける必要がなくなります。最初は100万円の投資でテストをして、数回それを繰り返して一番効果の出るものを絞り込んで、全国展開する。その方が、費用対効果は何倍も高くなるはずです。

 こうしたノウハウを蓄積して、2018年4月ころからラクスルのテレビCMサービスとして外販するようになりました。その後、2020年4月には「ノバセル」の名称にしました。
(2021年8月28日公開記事に続く)