社長就任後に打ち出した
四つの基本方針
リーマンショックという予想外の事態はありましたが、事業の再建でやるべきことはわかっていました。
業績回復に向けて、社長就任後に打ち出したのは、「コア事業への資源集中」「車検サービス事業の拡充」「経営効率の向上」「活力ある会社づくり」という四つの基本方針です。
一つ目の「コア事業への資源集中」については、長いことやってきたカー用品販売は、多くの知識や経験があるのだから、とにかくここを強化しようということ。
具体的には、最も売り上げが大きく、利益も大きいタイヤを売ることに注力しました。
当時はタイヤ販売で安売りや工賃無料のような変なサービスをしていました。
しかし、安売りを認めると、社員は楽をして売ることを覚えてしまうんです。そして、工賃を無料にすることで、作業も荒っぽくなりかねません。
逆に工賃をいただく以上、しっかりした技術サービスを行うことで、顧客満足度が上がり、ひいてはリピートしてくれる顧客も増えます。
だからこうした意味の無い安売りは、全部やめさせました。すると、サービスの質が上がるだけでなく、粗利率も驚くほどに改善しました。
タイヤの売り上げを増やすためには、さまざまな策を行いました。
例えば、タイヤの売り方です。
店頭にただタイヤを陳列しているだけでは、顧客はどう選べばいいかわかりません。
タイヤを値段ごとに「高いゾーン」「中くらいのゾーン」「低いゾーン」の松竹梅に分けて展示することで、お金に余裕のある人や車好きの人などは高いゾーンを選ぶだろうし、コスパ重視であれば低いゾーンから商品を選べるので、買いやすくなる。また、どうしても安さを求める顧客向けには、海外製のタイヤを大量に安く仕入れて販売したりもしました。
こうした販売上のテクニックもさることながら、最も大事なのは、トップが「タイヤを売るぞ」と言い続けることです。
今でもテレビコマーシャルなどで「タイヤで選ぶならイエローハット」とPRしていますが、あれは私が社長就任して以降、ずっと言い続けていることです。一度も途中でやめず、言い続けることで、タイヤ販売に注力するという会社の方針が徐々に社内に浸透していきました。
そして、次に言い始めたのが四つの基本方針の二つ目である「車検をやれ」でした。
車を持っている人ならご存じでしょうが、車検の際にはタイヤやバッテリーなどを点検し、消耗していたら交換します。
当社が車検をやることで、こうした消耗品の売り上げが期待できますし、さらに塗装を保護するためのボディコーティングや、車体の傷やヘコミを直す軽板金など、当社の得意な事業に関連したビジネスに領域を広げていきました。
なお、業績を回復させる過程で、金融機関からは何度も店舗や人員のリストラを求められました。
しかし、結論から言うと、店舗も人員もリストラはしませんでした。中目黒の本社だけは、先述の通り、借金返済のために売却せざるを得ませんでしたが。
当時は店舗に社員が多かったので、例えば12人いる店を10人にして、残る2人を新規出店の店舗に異動しました。そうすることで、リストラせずに済むだけでなく、トータル的には新規出店の人件費をゼロにできるわけです。