管理職にとってチームとは「家族」である

 だから、私は、新しい部署の管理職になったら、メンバーに対して、こう宣言することにしていました。

「みなさんは、自分の家族だと思っています」

 これが、最も端的に「私はみなさんを信頼する」ということを伝える言葉だと思うからです。個人主義が尊重される現代において、「職場は家族」ということに違和感をもつ人もいるかもしれませんが、私は、そう言い切ってしまったほうがよいと考えています。

 私がそう思うのは、かつて勤めていた会社での経験があるからです。

 そこは、典型的な体育会系の会社で、多くの管理職が「根性で売ってこい」とメンバーに“圧”をかけるような社風でした。だからこそ、ものすごいスピードで成長していたとも言えますが、成果をあげないメンバーを徹底的に追い込んでいく管理職が多かったために、職場はギスギスして、離職率も非常に高いのが現実でした。

 しかも、成果をあげることができず、心が折れて退職していく人が多いだけではなく、腕を磨いて「貴重な戦力」になった人が、よりよい職場をめざして転職していくケースも多かった。だから、心が折れていく人たちを見ながら心が痛むとともに、私には、こんな職場運営を続けていたら、会社の成長もいずれ頭打ちになってしまうとしか思えませんでした。

覚悟をもって「管理職という役割」を演じ切る

 それに、大学で教職過程をとった私には、「人材育成」の観点からも強い違和感をもたずにはいられませんでした。

 管理職の仕事は、教師がそうであるのと同様に、成果をあげることができない人を、成果を出せるように導くことです。そして、そのために必要なのは、その人を責めて追い詰めることではありません。成果が出ていないことで一番苦しんでいるのは本人であって、その人を責めることには何の意味もない。それはただ、人材を潰しているだけなのです。

 それよりも大切なのは、まずは「この管理職は自分を見捨てたりしない」と理解してもらうこと。その信頼感があるからこそ、管理職の指導に耳を傾けてくれるようになり、いずれ成長の糸口をつかむタイミングが訪れる。そして、そのように成長するメンバーが増えることでこそ、組織は持続的に成長していくのです。

 だから、管理職になった私は、メンバーたちに「みなさんは、自分の家族だと思っています」と伝えることにしました。

 そして、「家族なんだから、遠慮しないでください。家族なんだから、みんなで力を合わせて、一緒にいい仕事をしていきましょう。家族なんだから、何があっても、みなさんを守ります。もちろん、叱るべきときには叱りますが、それはみなさんの成長を願ってのことです」と呼びかけたのです。

 もちろん、口で言うだけでメンバーが信じてくれるわけではありません。

 その言葉に行動が伴って、はじめて「信頼」してもらえるのです。

 だから、私は、誤解を恐れずに言えば、管理職の仕事とは「演じる」ことだと思っています。正直にいえば、いい加減な仕事をしてトラブルをこしらえたメンバーに対して、内心で腹を立てたこともありますし、チームの成績が伸びず、上司や周りの管理職から「前田が甘いからだ」と責められたときには、自信が揺らいだこともありました。「人格者」になど、なかなかなれるものではないことを痛感せざるを得ませんでした。

 だけど、「みなさんは、自分の家族だと思っています」と宣言したからには、メンバーを守り抜き、その成長を願う「家族の長」を、演じ続けなければならないと自分に言い聞かせました。その覚悟がないのならば、管理職は務まらないし、務めるべきでもない、と腹をくくったのです。