こうした中でAUKUSが結成されたが、同盟国間の亀裂を生んだ割には、豪州が原子力潜水艦8隻を2030年代に就役させても、中国の戦略環境が大きく変わるわけではない。

 米海軍は弾道ミサイル原潜14隻、対艦船用の原潜51隻を持ち、対潜哨戒機は100機以上で、潜水艦を探知する技術が極めて高い。一方、中国は弾道ミサイル原潜6隻、対艦船用原潜6隻で、対潜水艦能力は低いから、豪州の原潜6隻が米国側にいてもいなくても中国海軍の劣勢という大勢には影響しない。

 英国は、AUKUS結成に先立ち、空母クイーン・エリザベスを初めて太平洋に派遣し、9月4日には横須賀に寄港、米国の対中包囲戦略に同調する姿を示した。

 英国はEUから離脱し、欧州大陸諸国との縁が薄れたため、旧大英帝国時代のコネクションに頼ろうとするから「AUKUS」に積極的なのかもしれない。

 だが軍艦は年間約3カ月はドック入りして整備するし、1隻しかない空母を東アジアに常駐させるわけにはいかないから、いわば議員の「励ます会」に形だけ顔を出したようなものだ。

 英国にとっては、それによって英企業が豪州の原潜建造計画に部分的にでも参画できれば儲け物というところだろう。

 仏の強い反発に、バイデン大統領はマクロン仏大統領に会談を持ち掛け、近く電話首脳会談が行われるとも伝えられている。だが、米仏関係が改善されるか否かは分からない。

「米国第一」を掲げたトランプ政権時代、米国と欧州との関係は悪化した。トランプ大統領はEU(欧州連合)やNATOに対して概して冷淡で、次々と悶着を起こしていた。

 バイデン政権は、同盟国との連携強化を掲げ欧州との関係修復に動き、仏育ちのブリンケン氏を国務長官にし、EUとの和解を図ってきたが、AUKUS結成と潜水艦問題は米国と仏独など欧州の間に新たな溝を生じさせた。

アフガニスタン撤退でも
欧州は米国に不信感

 もともと欧州側の「米国不信」は広がっていた。

 マクロン大統領と退任が近いドイツのメルケル首相は中国包囲網には反対あるいは消極的だったし、先の米軍のアフガニスタン撤退の不手際も欧州側に不信感を抱かせた。

 米軍が撤退の計画を他国の部隊や大使館に連絡せず、少なくとも調整が不足だったため、「引き揚げの混乱に巻き込まれた」との批判が欧州諸国に出て、EU独自でEU軍を作る構想が再燃した。

 EUはアフガニスタン情勢についての協議のため9月2日に国防相会談を開いたが、「軍事的な米国依存から脱却すべきだ」と唱える人が多く、ボレルEU外交安全保障上級代表は11月半ばまでに具体案をまとめる方針を記者会見で表明した。当面は初動用に5000人の部隊創設を想定している。EU軍が確立し成長すれば米軍主導のNATOの存在理由が薄れ、米国の覇権が揺らぐことになる。