秋の総選挙は
「コロナ対策の是非を問う選挙」になる?

 自民党は総選挙に際して、選挙の争点をシンプルに設定するのが得意です。本当は野党から見ればたくさんの政策論点があるにもかかわらず「これは郵貯民営化の是非を問う選挙です」といったように選挙の最大の論点を単純化することで地滑り的勝利を収めてきた歴史があります。

 そして、今秋に行われる衆議院議員総選挙は、ここまでは明らかに自民党が不利な状況です。しかし仮に、新総裁が誕生した上で、これまでとまったく違うコロナ対策をぶち上げたとしたらどうでしょうか?

 たとえば「ウィズコロナの長期化を踏まえ国民の生活と経済を第一優先する大方針転換」をぶち上げたとしましょう。

 コロナワクチン接種が国民の8割を超える12月をめどとして「これまでのまん延防止策をすべて終了し、国民生活がほぼ以前と同じ状況へと戻ることができる行動緩和政策へと切り替える」「ワクチンパスポートや抗原検査キット無償配布などを活用してリスクをコントロールする」「ワクチンの効果が半年程度で切れてくることを想定して3回目の接種も決定した上で断行する」といった形で国民の外出行動の全面緩和を宣言したとしたらどうでしょう?

 おそらく世論は二分されるはずです。制限緩和は怖い、ワクチン自体危険だと考える緩和反対派が約半分、そしてもう規制はこりごりだ、早く元の生活に戻りたいと考える緩和賛成派が約半分。そして「その是非を問う総選挙だ」と自民党新総裁が宣言をすると仮定してみましょう。

 この場合、問題は「どちらの世論が相対的に多いか」です。世論の空気は移ろいやすい傾向にはありますが、ざっくりと捉えれば今のところ半々というよりは4対6で多数派は「早く緩和してほしい派」のはずです。

 ワクチン接種8割が前提条件となれば、賛成票はさらに増えるでしょう。その認識であれば与党が「緩和」を掲げ、野党に「この状況でなぜ緩和などといえるのか?」と政府を批判させた方が選挙戦が有利になる。あくまで未来予測の一シナリオではありますが、今の世相はそのような作戦が成り立つ状況にあります。

 選挙戦というだけでなく本質的に政治というものは、どちらかを選択せざるを得ない状況が必ずあります。これまでの菅政権は医療を選択した上で、自由と経済に我慢を厳しく強いてきました。ですからあくまで政治家の選択という観点ではその逆に、自由と経済を選択した上で、医療は方針を転換するという選択はありえます。

 この場合、医療現場の負担が増えない対応策もありえます。法律を変更して、新型コロナへの医療現場での行動ルールについて、ワクチン接種が完了した医療関係者はインフルエンザなどもう一段下のルールに緩和するような新方針や、酸素投与センターの緊急拡充と組み合わせれば、医療現場の負担を下げつつ、国民行動の緩和を両立させる政策も成立しうるという話です。

 さてさて、ここに書いたことはあくまで評論家としての未来予測シナリオではありますが、ひとつだけ確度が高い前提は「29日に新総裁が誕生することと、28日に全解除が発表されることは連動しているはずだ」という点です。翌30日以降、新型コロナに関してどのような新方針がビッグニュースとして飛び込んでくるのか?新総裁への期待を込めて状況を見守りたいと思います。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)