自分が「正しい」と思うことしか、
やってはいけない

 いや、はじめから違和感を感じていました。

 というのは、紹介していただく社長に、初めて会いにいくときに、「会社の決算対策のために、このプランでいきたい。保険料はこのくらいがいいと思う」と、かなり高額の保険料を税理士が口にしたからです。

「えー、それはおかしいやろ」と思いました。

 だって、保険の営業をするのは僕です。その僕が、依頼主である社長さん本人に会う前に、おすすめするプランを“決め打ち”するのは明らかにおかしい。じっくりと社長の話を伺ったうえで、そのニーズに応えるプランを提案するのが僕の仕事です。だから、そのときは「まぁ、とにかくお会いしましょう」とはぐらかしました。

 そして、実際に社長の話を聞くと、税理士が提案する保険料は、その会社にとってリスクがあると思いました。

 というのは、たしかに、その会社の売上・利益は上がっていましたが、キャッシュが少なかったからです。その会社は製造業だったので、キャッシュの「出」と「入」のタイムラグがすごくある。しかも、在庫も抱えなければならないから、実際にキャッシュが入ってくるタイミングも完全にはわからない。

 だから、税理士が提案するような高額の保険料を、そのタイミングで出してもらうのは、一時的な決算に対する効果は大きいかもしれませんが、それゆえに経営上のリスクを負わせるのは間違っていると思ったのです。

 社長にも、そのことを率直に伝えました。

 すると、社長も同意され、最終的には、税理士が口にした保険料よりも減額した金額で契約することで話はまとまりました。

 しかし、それに、税理士は強い不満をもっていました。社長との面会が終わったあとに、税理士にこんなふうに文句を言われたのです。

「どうして、金額を下げたんですか? あなたの話はよくわかるけれど、あの会社のキャッシュフローを見ているのは私です。ちゃんと見てるんだから、私が言った金額でやってくれ」

 そして、その後の一言が、僕には衝撃的でした。

 彼は、こう言ったのです。

「そうじゃないと、私の取り分が減るじゃないですか」

 こんなことを言う税理士は、まずいないと思います。たまたま、僕がそういう税理士と組んでしまったということです。しかし、このときの違和感は僕にとって決定的でした。反射的に「この税理士と組むのはやめよう」と思いました。

「目の前」のお客様にとってよいサービスをすることで、お互いにプラスになるようにするのが営業マンの仕事です。

 だけど、自分の利益のために、「目の前」のお客様から「もっと大きなものを取ろう」という発想は、僕のなかではありえない。そして、自分が「正しい」と思うことしかやらない、というのが僕のなかの鉄則。だから、僕は、その場で、税理士に「この話は断ります」と伝えたのです。