ビジネスの制約から目的に変わるESG

関根 社会課題を解決するプレーヤーとして期待されるようになったことで、企業も目的の再検討が求められていますね。

ESGは制約か目的か、企業が担うべき「社会性」を問い直す

安田 そのためのアプローチは2つあります。一つは「利益」という目的は維持したまま、CO2の削減や多様性の確保などのESG項目を制約条件として付加するというもの。もう一つは、「企業の目的そのものをESGに変える」という、よりドラスチックなアプローチです。もちろん、企業の存続には資金が必要です。そこで、一定の利益の確保を制約条件として付加する。つまり、目的と条件を逆転させるのです。

 これは、「利益は企業の目的ではなく、存続の条件」と喝破したドラッカーの企業像と重なります。使命の実現のために、手段として利益を得る――。このような企業が増えれば、市場と非市場の融合や、社会課題の解決がよりスムーズになるでしょう。

関根 企業の利益がESGの原資になるのならば、企業が利益を追求すればするほど社会が良くなる、という反論もあり得ます。

安田 確かに、時価総額が極めて高いGAFAのような企業に目を向ければ、環境施策や働き方改革にも先進的に取り組んでおり、あえてESGをうたわなくても市場の競争だけで社会課題を解決できるかのように思えます。ただし、忘れてはいけないのは、彼らは熾烈な競争に勝ち残った極め付きの勝者であるということです。現実には、企業の多くは10年も持たずに消えてしまいます。成功企業が結果的に社会に貢献する可能性が高いことが事実だとしても、そんな企業は一握りにすぎません。多くの企業の行動を変えるために、短期的かつ明示的なESG目標を掲げることには大きな意味があります。

関根 社会貢献を強く押し出した「ゼブラ企業」がベンチャー領域で台頭しつつあることも同じ流れですね。企業が社会的な役割を担うという点に関して、欧州の企業と日本企業を比較して相違点などはありますか。

安田 日本では、まだ新卒一括採用が維持されていて、若い人が就業チャンスを得やすいですよね。一方、欧州の企業は即戦力ばかりを採用しようとするので若年失業率が高く、大きな社会課題となっています。もちろん、それを補完するために公的な再雇用支援や高等教育保障は充実しているのですが、日本では、こうした教育コストを以前から企業が引き受けてきました。これは世界が見習うべきポイントではないでしょうか。

 企業を「個人では達成不可能なミッションを成し遂げるための集団」と考えれば、社会課題解決の担い手として期待されるのは当然です。企業が事業の殻に閉じこもらず、外部の社会や環境にもっと目を向けるようになれば、外部のコミュニティと補完関係が築きやすくなりますし、従業員も個人として社外の活動にコミットしやすくなり、1つの組織に縛られず「分人化」していきます。そうなれば、さらにシナジーが広がっていくでしょう。

関根 『3X(スリーエックス)』では、自律した個人が複層的につながり合う未来のコミュニティとして「共領域」を提唱しています。今安田先生がおっしゃったようなつながりは、まさに共領域的だと思います。

安田 多様な役割を担うコミュニティや組織が増え、つながっていく。共領域の発達した未来像には、私も期待しています。