企業をアップデートする「2つのものさし」

関根 ポストコロナに向けて、企業にはどのような新しい視点が求められるでしょうか。

安田 最初に申し上げた「市場、非市場の合わせ技」は、営利企業内にも見られます。事業収益を得るプロセスは市場的ですが、社内のタスク配分などは、個人のモチベーションや組織としてのマネジメントといった非市場的な仕組みに委ねられています。逆にいうと、しかるべきタスクを適切な人材に割り振れなかったり、従業員のモチベーションをうまく引き出せなかったりする組織、つまり非市場的な仕組みがうまく回っていない組織は、結果的に市場での利益も得られないのです。

 私の仮説では、組織が「従業員の自己実現」と「組織としての目標達成」という2つのミッションを同時に達成するためには、「2つのものさし」が必要です。

 1つは「パフォーマンスの見える化」です。企業活動には、組織としての生産性や成果を測るさまざまな指標がありますが、一人一人の従業員の貢献度は必ずしも明らかではありません。これをできるだけクリアにしようという提案です。よく誤解されるのですが、成果報酬を導入せよ、といっているのではありません。パフォーマンスを可視化し、組織内で共有することで、互いに切磋琢磨する健全なモチベーションの向上につなげようといっているのです。人は金銭的な動機だけで動くわけではありませんから。

 しかし、それだけでは組織内に、仲間を助け協力し合うような利他的・互恵的な行動は生まれません。そこで、2つ目のものさしとして「近さ・遠さを把握できるチャンネルづくり」が必要です。企業内でも「同期入社」「同じ出身大学」といった共通項が見つかるだけで、互恵的な振る舞いが起きやすいことは多くの人が実感しているでしょう。また、慈善活動に興味がない人でも、自分の故郷で災害が起きれば寄付やボランティア活動をしたくなるもの。集団のパワーを発揮させるには、まず「近さ」に気付ける環境があることが大事です。