総選挙では、保守派の支持はスルーする自民党

 自民党にとって、党総裁選では「保守派」の支持が重要となるが、総選挙では、「保守派」の支持の重要性が薄れる。自民党総裁選では、各候補者が日本遺族会や日本会議など、保守系の団体に配慮をしてきた。選挙の勝敗に一定の影響を持つからだ。

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 しかし、総選挙になると、自民党は保守派に配慮しなくなる。むしろ、子育て世代、現役世代のいわゆる「中道層」の票の獲得を狙う。声が大きいが、実は多数派ではない右派や左派ではなく、日常的に政治に声を上げることは少ないが「サイレントマジョリティー」である中道層の支持を得ることが、野党を破って、政権を維持することにつながるからだ。

 それが、安倍政権が保守層にリップサービスをしつつ、実際に社会民主主義的な政策を実行し続けた理由だ。一方、野党の弱体化は、左傾化して中道層に失望されてしまったことで、安倍政権は長期政権を実現した(第169回・p3)。

 なぜ、総選挙では保守派が重要でなくなるのか。

 保守派は、自民党に不満があっても、総選挙で野党に投票することは、絶対にないからだ。だから、岸田政権も、保守へのリップサービスを続けつつ、実際には中道層に支持される社会民主主義的な政策を拡大していくことになる。それが、野党をつぶす常套策であり、自民党の権力維持のためのリアリティーなのである。