かつて意思と偶然の戦いは、偶然が勝利した

 実は、この議論と全く同じ「創造は意思の力とは限らない」という考え方こそが、かつて生物学史に進化論を誕生させました。

 16世紀頃まで、「あらゆる生物は神の意思によって創造された」という考えが一般的でした。これを指して創造論と言います。その逆説として、「生物は誰かの意思の力ではなく、おのずと発生している」という考えから生まれたのが進化論でした。壮絶な論争を経て、両者の戦いは進化論に軍配があがりました。

 その決定打となったのが、ダーウィンらによって提唱された自然選択説による進化論でした。繰り返し変異のエラーが発生していき、その中から何世代もかけて環境により適応した変異が生き残ると、神の意思による創造としか思えないような優れたデザインにたどり着いてしまう、という考え方です。

 変異のエラーはランダムに起こる「偶然」の産物です。そして、何世代にもわたって自然選択されて適応するのはいわば「必然」的な現象です。確かにこの二つとも、誰かの意思を超えた現象ですよね。もしもこの仕組みが、事業構想などの私たちの創造性でも同じだとしたら、どうでしょう。

 進化思考では、進化における生物の知的構造と同じように、創造性もまた、「変異の思考」と「適応の思考」という二つのプロセスの往復から発生すると考える。

変異の思考:偶発的なアイデアを大量に生み出す発想手法
適応の思考:適応状況を理解する生物学的なリサーチ手法
(進化思考 P54から)

 進化思考では、生物の進化と人の創造性は共通の構造を持っていると考えます。つまり「創造性には主体的意思が必須」という思い込みを手放して「創造は偶然と必然の繰り返しがあれば自然発生する」というのが、進化思考なのです。