失敗の価値が偶然の力を引き出す

 生物の進化に必要な偶然の変異は、DNAのコピーエラーが原因といわれています。つまりそもそも進化は、失敗によって発生する偶然を必要とするメカニズムなのです。むしろ有性生殖の仕組みなどは、エラーの発生数を増やして変化し、自然環境を生き残れる確率を上げた、「失敗を増やす仕組み」だとも言えます。

 これはビジネスなどのアイデアにおいても全く同じです。つまり失敗をどう扱うかで、人の創造性は全く変わります。そして、意思によって創造できるかはわかりませんが、アイデアの発生確率を上げるために積極的に失敗する環境を作ることは、意思に関わる問題だと言えます。

私は失敗したことがない。ただ、一万通りのうまくいかない方法を発見しただけだ。――トーマス・エジソン 

 このエジソンの言葉はたとえ話ではなく、実際に彼はフィラメントの材料を探すために約6000種類の材料を試しました。もちろん、その多くが失敗です。けれども彼は失敗を失敗とは捉えなかった。創造的な人の特徴の一つは、取り返しがつく範囲であれば失敗に対して前向きなことです。そして時に失敗は、当初に意図した成功をはるかに超える価値に結びつくことがあります。

よくある誤解は、創造的な人はそうでない人よりも頭が良く、間違えずに洗練された創造ができるという固定観念だ。でも実際の創造は、間違いに満ちている。
(『進化思考』 P70から)

 ノーベル賞を受賞した科学者を調べてみると、研究室が汚すぎてシャーレがカビてしまってペニシリンを発見した話や、助手が間違って1000倍の量の触媒を入れてしまったために合成できたアセチレン膜の話など、失敗が導いた偶然から生まれた発見は少なくありません。

 こうした想定外の偶然が起こることを失敗と呼ぶなら、失敗を避ければ避けるほど、創造が生まれにくい環境になります。このことに社会や教育や組織は無自覚で、いつも失敗の可能性そのものをできる限り減らそうとしてきました。しかし実際には逆に、創造的な環境を作るには、積極的に「取り返しのつく失敗を繰り返さなければいけなかった」のです。