わが国の需要は供給を下回っている
分配だけで所得を増やすのは難しい

 そうした状況下、岸田政権は分配をより重視し、令和版所得倍増計画を打ち出している。が、本当にわが国経済は回復過程を歩めるのだろうか。

 1960年に池田内閣が所得倍増計画を発表した当時、わが国経済は高度成長期にあった。需要は供給を上回っていた。自動車産業での設備投資は、鉄鋼や電力分野での設備投資の増加を支え、電力業などの設備投資は電機メーカーの設備投資の呼び水となった(投資が投資を呼ぶプロセス)。

 しかし現在、わが国の需要は供給を下回っている。4~6月期の需要不足は年換算した金額ベースで約22兆円(マイナス3.9%の需給ギャップ)だ。分配だけで所得を増やすのは難しい。

 政府は、労働市場の改革などを加速し、成長期待の高い分野に生産要素が再配分される環境を整備しなければならない。具体的には、IT先端分野や医療・医薬、脱炭素関連などの最先端分野で新しい産業を育成しなければ、経済のパイは拡大しないだろう。そのため補助金政策の重要性も増す。欧米に比べわが国の改革は遅れている。

 今後の展開として、総選挙後、岸田政権は数十兆円規模の補正予算を組むだろう。景気刺激策により、短期的には経済は緩やかに持ち直すはずだ。

 その効果が発現している間に、政府が潜在成長率の引き上げに資する改革を実行できるかが問われる。それが、わが国が中国や欧米諸国が進める新産業分野での積極的な取り組み(ゲームチェンジ)に追随できるかに影響する。わが国の半導体部材や自動車、工作機械などの企業は世界的な競争力を発揮している。厳しい状況ではあるが、わが国は改革を進めるチャンスを迎えている。

 反対に、改革が十分でなければ、わが国経済は海外の要因に振り回され、自律的な成長を目指すことは難しくなるだろう。その場合、需要停滞が鮮明化し、わが国経済はこれまで以上のスピードで縮小均衡に向かう恐れがある。