見えない未来を切り開く経営者を
投資家は評価できるのか
清水 実は私、SDGsバッジを1年ほど前に外しました。4年ほど前からずっとしていたんです。当初は「それ何でしょう?」と言われていましたが、最近は誰からも言われなくなりました。「SDGsのバッジをしているんだね」と言われたときに、僕はバッジを外すことを決意しました。
そもそもは、誰もSDGsを認識していなかったので、啓発活動という目的でバッジをしていたわけです。今はもうその目的を達成しました。バッジを付けることで、なんとなく気持ちよくなることが目的ではありませんから。
楠木 「品格、品格」と言う人ほど、品格がない。そういうことは、あまり人前で言うことではないと思います。もっと実績を見るべきです。
清水 時間があと3分しかありませんので、そろそろまとめに入りたいと思います。
楠木 最後に一言ずついただきましょう。清水さんから。
清水 今は非常に多くの情報があふれていて、ある意味ノイズが多い社会とも言えるので、それらの底流に流れている本質を見極める癖をつける必要があるように思います。実は私、スマホを持ってない人間でございまして、ずっとガラケーなんです。しかも金融業界では必須と言われている情報端末であるブルームバーグも持っていませんので、株価はYahoo!ファイナンスで見ています。
もちろん不便ではあるのですが、不便であるからこそ、ちょっと努力して一次情報をしっかりと確認しに行きますし、そうやって苦労して情報を取得するからこそ、情報の持つ意味をしっかりと認識し、結果的にその底流にある本質的なモノが見えてくるような気がしています。
大量の情報に触れて、自分で消化しないままに理解をしたつもりになっていると、次に何が起こるのか、底流にある本質的なモノは何なのかが見えなくなってしまうかもしれません。そういう本質的なモノを意図的に見るようにするために、あえて不便を楽しむということを、私はやっているのです。
今の時代のように数多くの情報が氾濫して本質が見えづらい状況においては、そういう姿勢もアリなのではないかということで、私の話を締めさせていただきます。
中神 今日は、経営をされている方に対して、ずいぶん厳しい言葉を言ってしまったと思います。一方で、投資家もひどいと思うんです。我々も本当に自省をしなければならないと思っています。
この間、あるCEOから言われた話で、すごくグサッと来たことがあります。その方は自社株買いをし、事業ポートフォリオを組み替え、ROEを上げてきた。そのときは大変評価され、絶賛され、株価もものすごく上がった。
そして、その方がこれからやろうとしていることは、イディオシンクラティックな将来を見て、誰も見ていない将来を切り開くこと。だから誰も賛成しないけれど、ここに投資をして、こういう未来をつくっていきたい。トランスフォーメーションをしたい。
そのようなことを言ったら、それまで評価してくれた株主は、手のひらを返したように、そんなことやらないでくれ、今やっていることだけをじっとやってくれ、それでずっと儲けてくれと言ったそうです。
それが本当に投資家なのかと言われたときに、もう本当に、ガーンときた。僕ら投資家も、そういうリスクを取ってコストをかける経営者や、その人固有のビジョンを持って賭けに出ている経営者を本当に支え切れるのか。あるいは何を見れば、それを支え切れるのかということは考えなければいけないと思っています。本当にハンマーで頭を殴られたような衝撃だったんです。そこに至る道を、みさき投資は考えたいと思います。
それ以前に、語るに落ちる投資家が山ほどいることも確かだと思います。おそらく、我々の業界は反省をしなければならない。そうやって、本当にみなで豊かになる道を少しでも切り開いていければいいなと思いました。
楠木 投資家も、もちろん選ばれ、評価されているわけですね。
中神 はい。
楠木 お互いに選び合うような、そういう関係が大切ですよね。本日はどうもありがとうございました。
清水 ありがとうございます。うまくまとまりましたね。時間になりましたので、本日はありがとうございました。
第1回 企業は「サステナビリティ」とどう向き合うべきか
第2回 従業員の給料を下げてROAを維持する日本企業の不都合な真実
第3回 なぜ株主はすぐ「ROE」と口にするのか
第4回 日本企業のリスクテイクは世界最低水準
第5回 儲けが出ていてもROEが下がり続ける「平均回帰の呪い」とは
第6回「投資家の思考と技術」で経営の次元を引き上げる
第7回 ESGに熱心だが業績を上げられないCEOはどう評価されるべきか
第8回「配当性向は平均でいい」と考える経営者に致命的に欠落していること
第9回 毎年2~4兆円分の株を従業員に持たせるGAFAから学べること