今年は、アップル創立の中心人物で、紆余曲折(うよきょくせつ)の末に同社を時価総額世界一の超巨大企業へと導いた、スティーブ・ジョブズの没後10年にあたる。現CEOのティム・クックへの最後の言葉として「スティーブだったらどうするか、とは考えるな」と伝えたジョブズゆえ、そろそろ伝説から解放しても良い頃合いかとも思うのだが、一方では、今でもいわゆる「知られざるエピソード」は存在する。今回は、個人的な思い出も含めて、ジョブズが成し遂げたことを振り返ってみたい。(テクニカルライター 大谷和利)
コンピューター専業メーカーとしての創業
今は昔の話だが、アップルは、2007年まではアップルコンピュータ、さらに1976年の創業から正式な法人化までの1年弱の間はアップルコンピュータカンパニーという会社名だった。1976年に創業したときには、パーソナルコンピューターこそが産業界のフロンティアであり、その専業メーカーを目指すという思いが社名にも表れていたわけだ。
当時はジョブズ自身も、将来的にiPodやiPhoneのような他分野の製品を開発して、しかも、ともすればそちらの会社として一般に知られるようになるとは、夢にも思わなかっただろう。しかし、そこから2007年に初代iPhoneを発表するまでの約30年の間にパーソナルコンピューターがマルチメディアデバイス化するとともに、小型化されたコンピューター技術を用いてさまざまな電子デバイスが作られるようになり、ジョブズとアップルは、その機をとらえて最大限に生かしたのである。