DCFモデルとの正しい向き合い方
DCFモデルで理論株価を算出しようとする際に、市場参加者の予想を含んでいて、数字として入手可能なものは何かというと、「金利」と「株価」だけです。
ちなみに、「株価」には「金利」の影響は反映されています。金利が上がれば株価は下がり、金利が下がれば株価は上がります。ですので、理論株価を算出する際には、今ある「株価」を利用しない手はありません。そして、その方法はここまでお話ししてきたとおりです。
では、ここまで習ったとおりにDCFモデルで理論株価を計算してみようと、実際にご自身で手を動かす方もいるかと思います。その後のよくある状況として、「今の株価が超割高に出てしまった」「今の株価が超割安に出てしまった」ということがあります。
このずれはどこからくるのでしょうか。
ここまで私は「割引率をあまりいじるな」と説明しているので、まずFCFから疑ってみましょう。
では、自分のFCF予想にもとづいた理論株価と株式市場での株価とはどこが違っているのでしょうか。また、正しいのか間違っているのかはどう判断すればよいでしょうか。
まずは、利益成長期間です。これは事業の寿命と置き換えてもよいのですが、次のように考えます。
たとえば、流行り廃れの激しいスマホゲーム事業であれば、5年間も成長し続けるということは考えにくく、3年がいいところだという判断もあるでしょう。また、企業の福利厚生向けサービスで一度使い始めたら簡単には解約されにくく、顧客を積み上げるモデルで、事業寿命が長いと考えるのであれば、5年以上利益成長を続けてもよいわけです。こうした判断は、それこそプロ投資家である証券アナリストやポートフォリオマネージャーの仕事の中で重要な要素です。
また、ほかの確認ポイントとしては、投下資本に対してのキャッシュフローの収益率があります。これはオペレーティング・アセット(実際に稼働している資産)に対して、どれくらいのキャッシュフローを生み出しているかという見方で、CFROIなどがその例に当たります。キャッシュフローを正確に計算したつもりでも、その予測が別の評価軸で見たときに過去の水準と大きく異なれば、予想の確度に疑問が残ります。過去の実績と予想で大きくずれているのであれば、その背景を考える必要があります。
また、投下資本に対する収益率を測る際には、分子にNOPATを使うと、ROICといった指標を算出することもできるので、これも過去実績と比較して自分の予想が十分に説明できるものかどうかを考える必要があります。ただ、投下資本がいくらあるかなどの算出には、外部から見えにくい要素も絡んでいるので、どちらかといえば企業の「中の人」向けの指標ということを付け加えておきます。
実は、DCFの上手な使い方として、自分の予想と株式市場の株価とでは「何がずれているのか」を見いだすことがあります。先にお話ししたように、理論株価も時々刻々と変化してもおかしくはありません。その中で、自分の期待と株価に織り込まれている期待がどう違うのかを知ることが、超過収益を見いだす材料になるのです。そうした姿勢がDCFモデルとの正しい向き合い方であり、プロ投資家はそこまで使えるようになると一人前とされます。