一年をかけて準備し、パリに出展したのにオーダーゼロ
この先一〇〇年「西陣織」を続けていくためには、販路を広げるしかない。細尾はこうした形勢を逆転するため、海外展開に賭けていました。
当時の社長だった私の父は、二〇〇六年にテスト・マーケティングとして、パリの「メゾン・エ・オブジェ」という見本市にソファーを出品しました。
メゾン・エ・オブジェは年に二回、パリで一月と九月に行なわれるインテリアとデザインの展示会です。世界中から約一〇万人の来場者が訪れる、世界最大級の商談の場です。
一年かけて準備してパリまで持っていったのですが、結果は、オーダーゼロ。初めての海外戦は厳しい幕開けとなりました。それだけ大規模な見本市に出したのに、まったくオーダーがないというのは、あまりにショッキングな結果でした。
いま思えば、その結果には二つ理由がありました。
一つは生地幅の問題です。西陣の帯の幅は通常三二センチです。その幅の織物でソファーをつくっても、どうしても生地の継ぎ目の箇所がたくさん出てしまう。継ぎ目だらけのソファーは、インテリアとして見た目が良いものではありません。
もう一つは、「織物でつくった製品で勝負しないといけない」と思い込んでいたことです。
固定観念を離れてよく考えてみれば、細尾は織物のプロではあっても、家具のプロではありません。世界のマーケットでどんなプロダクトが求められているのか、それをわかっていなかったのです。
仮に売れたとしても、メンテナンスはどうするのかという問題もありました。
何とか製品をつくったものの、当時の細尾には、その商品をきちんとケアできるノウハウもスキルもなかったのです。