海外展開の動きを見て、家業に戻ることを決意

 翌年はその反省を生かし、もう少し市場調査をしたうえで製品をつくることにしました。

「海外ではクッションの需要が多い」というデータを踏まえ、メゾン・エ・オブジェにクッションを持っていくことにしました。

 海外の百貨店ではクッションを多く売っているし、家庭でもシーズンによって変えたり、ベッドで使ったりと多くの用途があります。

「それならば勝機はあるだろう」と考えました。

 日本独自の和柄を生かした高級クッションなら、勝負できる。それにクッションの大きさであれば、生地幅が足りずに継ぎ目だらけになってしまうこともありません。

 クッションで勝負した二〇〇七年のメゾン・エ・オブジェでは、オーダーが少し入りました。香港の高級セレクトショップ「レーン・クロフォード」と、ロンドンの老舗百貨店「リバティ」からのオーダーでした。

 しかしオーダーが入ったといっても、決して大きな規模のものではありません。一年かけて商品を準備して、パリまで行って売ってという労力とコストを考えると、事業としては大赤字でした。

 細尾は初めてのオーダーに勢いを得て、その翌年も出展を続けました。その頃東京のジュエリー会社にいた私は、細尾のこの海外展開の動きを見て、家業に戻ろうと決意を固めたのです。

細尾真孝(ほそお・まさたか)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。