電車でお年寄りに席を譲って、失敗体験をしてみる

 そもそも失敗という経験は、別にしてはいけない経験ではありませんし、特殊な経験でもありません。

 自分の身近に仕事ができる会社員や、あるいは理想的な家庭を築いている人がいたら「あっちは私と違って失敗しないからいいな」と思うかもしれませんが、そんなことはありません。

「仕事ができる会社員」も、案外と小さな失敗はするものですし、理想的に見えるカップルも、実は裏で些細なケンカ(失敗)をしていたりしています。

 ただ、人は自分の失敗をあまり公表しませんから、傍で見ていてもわからないだけです。

 それでも失敗することが怖いなら、あえて小さな失敗体験を実践してみればいいでしょう。

 お勧めなのは「電車でお年寄りに席を譲る」というものです。最近は、これができない若者が増えているようです。席を譲ろうとして、断られるかもしれないと「席を譲るのを失敗」するのが怖いわけです。

 とりあえず電車に乗って、譲れそうな人がいれば「どうぞ」と席を譲りましょう。その後は、そのまま電車内の離れたところに移動してしまえばOKです。

 その後、余裕があれば隣の車両から自分のさっきまで座っていた座席を見てみましょう。譲った相手が座っていれば成功!

 でもひょっとしたら意図が伝わらず、席は空いたままになっているかもしれません。これは定義するなら、「失敗」なのかもしれません。

 でも仮に失敗したとして、何かあなたの人生に困ったことは起こるでしょうか? 何も起こりませんよね。

 最初は、恥ずかしさとか反省点など、いろいろ考えて落ち込むかもしれませんが、数時間もすれば大体忘れているはずです。

 何度も譲り続けるうちに、譲ることが日常に溶け込み、あなたの悩み(「お年寄りがいたのに座席を譲れなかった」「譲るべきだったかもしれない」など)は一個消えることになります。

 まぁ、これもあなたが疲れていたら、無理にやらなくてもいいです。大体は失敗なんて、そんなものです。繰り返してみれば、断られることはだんだんと気にしなくなります。

 むしろちゃんと席を譲れた場合に、「よし、今日はいいことができた」と、ただ自分の行為を素直に評価できるようになっているでしょう。

 成功と失敗の差は、実際そんな程度です。失敗が普通で、たまに成功するからこそ嬉しいと思えるとも言えます。

 そして、どちらに転んでも、試した分だけ、一歩一歩人は成長できます。

 もし自分の立場が上司や親である場合は、部下や子どもにはむしろ早めに小さな失敗を経験させるべきでしょう。それで怒ったりせず、「いい経験を積んだこと」を素直に喜んであげるのです。

 失敗は怖いことではないということがわかる、それだけで多くのしんどさは、解消されていきます。

 POINT:
 成功しても失敗しても、試した分だけ、人は成長できる。

人間の持つ飽きる心を利用して、恐怖や不安に打ち勝つすごい方法バク@精神科医
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく、行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーの道を志し文系に進学する。しかし「カウンセラーで食っていけるのはごく一部」という現実を知り、一念発起し、医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら、勉学とバイトにいそしみやっとのことで卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を専攻したが、医師研修中に父親が亡くなる喪失体験もあり、さまざまなことに対して自信を失う。医師を続けることを諦めかけるが、先輩の精神科主治医と出会うことで、精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にてさまざまな分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は、双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者が多い急性期精神科病棟の勤務医。「よりわかりやすく、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。個人クリニック開業に向け奮闘中。うつ病を経験し、ADHDの医師としてTwitter(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Twitterフォロワー4万人。『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』が初の著書。