ビャンビャン麺専門店も人気、商魂たくましい中華料理店

 今年7月下旬、東京・錦糸町駅の近くに、「ビャンビャン麺」専門店の秦唐記ができた。オーナーの小川克実氏はもと中国山東省出身で、01年に来日。現在、中華料理店を六つ持っている。そのうち、四つはビャンビャン麺専門店。「最初の中華料理店は僕が留学生時代、つまり大学4年の時に開いたものです」と小川氏が自己紹介する。

 ビャンビャン麺は中国の陝西省でよく食べられている幅広の手延べ麺だが、味以外で話題になるのがその漢字の書き方だ。

 画数が58画もあり、現在使用されている漢字の中でもきわめて複雑な部類に入る。私も含め、ほとんどの中国人はこの漢字を書けない。ビャンビャン麺の漢字表記を商標登録した小川氏は、「筆画が多くてその漢字が書けないと言われるが、逆にそれがビャンビャン麺の宣伝になる。あるIT会社はその文字のフォントを開発したとき、わざわざ私たちのところに来て、広告の協力を求めた。おかげで他人の褌(ふんどし)で相撲を取れた」と笑う。

 小川氏もコロナ禍のなかで、開店を続けている。20年2月に、秦唐記神保町店をオープン。その1年後には、錦糸町店の開店にも踏み切った。インフルエンサーが動画などをライブ発信しやすいように、壁の一面をわざと情報発信しやすい背景になるよう内装を改造したり、ビャンビャン麺がらみの記念品、グッズなどを販売したりして、売上額を増やそうと懸命に努力している。

 「コロナ感染者数が最近、減ったものの、客流は期待したほど戻っていない」と経営の厳しさを嘆くが、コロナ禍の影響を無視して新しい店舗を開いたことに対しては、小川氏は後悔していない。

 危機をビジネスのチャンスにしよう…という信念は、私が今回取材で訪問した会社に共通している。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)