投資家が“ミスター・マーケット”に
気をつけるべき理由

 厄介なことにミスター・マーケットがわれわれに訴えかけてくるものは、どんな優秀な営業マンよりも強いパワーを持っている。株式投資というのは本来、その企業の価値を評価して合理的な判断をもとにして買うべきものなのだが、多くの人は目先の価格の動きに惑わされがちになる。

 その理由は人間の「2つの心理」にある。人間の行動を促す心理で最も大きなものが「欲」と「恐怖」である。上昇相場の時は人間の行動を「欲」が支配する。そして逆に下落相場の時は「恐怖」に駆られて行動するというパターンになりがちだ。ミスター・マーケットはそのあたりの心理をよく読んで働きかけてくるから始末が悪い。

 おまけにこれらのパターンに加えて、株価が上がりだすと、「もっと上がるかもしれない」と思ったり、逆に下がると不安に駆られて売ってしまったりするという気持ちになりやすい。一つの方向に動きだすとあたかもそれがずっと続く動きであるかのように錯覚してしまうというのは、誰もが陥りやすい心理である

 例えばリーマンショックや、昨年のコロナ禍が拡大し始めたときに株価は大きく下がった。しかも、それらの社会情勢によって、直ちに業績が悪化したりすることがないような企業の株まで一緒に大きく売られ暴落した。

 個別企業の業績や成長性とは関係なく、社会情勢によって株価が下落した銘柄があった場合、本来であれば買い増しをしてもいいはずだ。いわば、優良な商品がバーゲンセールで投げ売りにあっているようなものだからだ。

 ところが、実際はそういう場面に直面すると、買い増しをするどころか、つられて自分の保有する株を慌てて売ってしまうということもしばしば起こり得る。株式のように常に価格が変動しているものほど、この罠にかかりやすくなる。まさにミスター・マーケットの思うつぼである。

 株価というものは長期的には企業の実体を表したものに収斂(しゅうれん)していくことが多いが、短期的にはその株式の売買に参加する多くの人たちの心理的な要因で動くことも多い。

「株式投資は美人投票だ」ということがよくいわれるが、これは自分が美人だと思う人に投票するのではなく、一番多くの人が美人だと思っている人を当てるという意味である。だとすれば多くの人の心理を読むのは大変だし、短期的な動きを当てるのは非常に困難である。「ミスター・マーケットに耳を傾けてはいけない!」ということは、そうした短期の市場の動きに惑わされてはいけないということなのである。