自然界に存在する猛毒
ボツリヌス毒素は自然界で最強の猛毒といわれている。ボツリヌス毒素はもっとも毒性が強く、次に破傷風毒素、志賀毒素(赤痢菌の毒素)、テトロドトキシン(フグ毒)などが続く。
破傷風菌による破傷風毒素も強力な神経毒である。破傷風菌もボツリヌス菌と同じグループ(クロストリジウム属)の偏性嫌気性菌で、主に土壌中に芽胞の状態で広く存在する。傷口から体内に入り、酸素の乏しい環境で発芽し、毒素を生み出すのだ。
破傷風毒素は、ボツリヌス毒素とは逆に神経を過剰に働かせる作用を持つ。開口障害(口を開けにくくなる)、嚥下困難(ものが飲み込みにくくなる)、顔面や全身の激しい痙攣などが起こり、適切に治療されないと死亡する。
一九八〇年に映画化された小説『震える舌』(三木卓著)は、破傷風毒素に侵された少女がリアルに描かれたことで有名だ。原因は、落ちていた釘による怪我であった。
破傷風は、小児期の予防接種によって発症を防ぐことができる(現在の四種混合に含まれる定期接種)。二〇一一年の東日本大震災では一〇人が破傷風を発症したが、ほとんどはワクチン接種を受けていない高齢者世代である(2)。
ワクチンを打てば、破傷風毒素に対する抗体ができ、破傷風から身を守ることができる。しかし、ワクチン接種後でも年齢とともに血液中の抗体の量は減り、破傷風への抵抗力が落ちていく。よって、汚染の強い傷をつくった場合、最終接種から十年以上経っていればワクチン接種を行うのが一般的である(2)。
【参考文献】
(1)“真空包装辛子蓮根によるA型ボツリヌス中毒事例に基づく辛子蓮根製造過程のHACCPプラン作成の試み” 日佐和夫、林賢一、阪口玄二(1998).日本包装学会誌、7(5):231-245.
(2)『医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版』(日本環境感染学会 ワクチン委員会編、二〇二〇)
『毒と薬の科学 毒から見た薬・薬から見た毒』(船山信次著、朝倉書店、二〇〇七)
(※本原稿は『すばらしい人体』を抜粋・再編集したものです)