スシローGHDとゼンショーHD
B/Sに無形固定資産が計上されたそれぞれの経緯

 続いて、各社のB/Sに関しても比率ベースの比例縮尺図で比較してみよう。

 くら寿司のB/Sには無形固定資産はほとんどないが、スシローGHDとゼンショーHDには無形固定資産が計上されている。スシローGHDの無形固定資産が総資産に占める割合は約36%、ゼンショーHDでは約16%となっている。

 この無形固定資産の多くを占めるのは「のれん」だ。しかしながら、スシローGHDとゼンショーHDでは、のれんが計上された経緯は大きく異なる(のれんの計上メカニズムについては、本連載第9回の『日本電産と信越化学・キーエンス、優良企業3社の決算書に見る「決定的な違い」』を参照)。

 ゼンショーHDでは、これまでにココスジャパンやビッグボーイジャパン、なか卯などの株式を取得し、子会社化することで事業を拡大してきた。いわば、ゼンショーHDは、M&Aを活用して外食のコングロマリットを構築してきたのである。これが、ゼンショーHDのB/Sにおいて無形固定資産が計上されている理由だ。

 一方、スシローGHDにのれんが計上されている理由は、もう少し複雑だ。スシローGHDの前身である、あきんどスシローは2008年に投資ファンド、ユニゾン・キャピタルの傘下に入ることで一旦上場を廃止している。その上場廃止後、ユニゾン・キャピタルは、あきんどスシローの株式をペルミラファンドに売却。その後、再上場を果たしたのがスシローGHDというわけだ。

 この過程において、投資ファンドは、あきんどスシローと合併させる目的の会社を設立し、あきんどスシローの株式を取得させている。そして、その合併目的で設立した会社とあきんどスシローを合併させることで、新会社(スシローGHD)としたのだ。

 ファンドが設立した会社が、あきんどスシローの株式を時価ベースの純資産より高い価額で取得し、その後両社を合併させた会社がスシローGHDであるため、そのB/Sにはのれんが計上されているのだ。こののれんの金額は、純資産を上回るほど多額なものになっている。

 このように、ゼンショーHDとスシローGHDのB/Sには双方ともに無形固定資産が計上されているが、その計上に至った経緯は大きく違う点に注意が必要だ。

 ここまで見てきたように、回転寿司各社の会社としての特徴は、決算書に色濃く表れていた。

 基本的に自力での成長を志向してきたくら寿司に対し、M&Aを活用した成長戦略を実行してきたゼンショーHDには、のれんなどの無形固定資産が計上されている。また、ファンドによる非上場化を経験してきたスシローGHDにおいては、ゼンショーとは異なる経緯で生じた多額の無形固定資産が計上されていた。

 また、スシローGHDは、1店舗あたり売上高を高めることで、原価率が高いにもかかわらず、高い利益率を実現することに成功していた。質の高い寿司を支える仕入れ、調理、DXといった取り組みにより1店舗あたりの売上高を高めることで、原価率の高さをカバーしていたのである。

矢部謙介(やべ・けんすけ)/中京大学国際学部・同大学院経営学研究科教授。ローランド・ベルガー勤務などを経て現職。マックスバリュ東海社外取締役も務める。Twitter(@ybknsk)にて、決算書が読めるようになる参加型コンテンツ「会計思考力入門ゼミ」を配信中。著書に『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)など。
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