経営陣が世界経済の環境変化に
迅速かつ的確に対応できるか

 現在、ソニーが進めようとしている選択と集中の目的は、人々に鮮烈な体験を与える力の向上と発揮にあるといえる。ソニーは、ソフトウエア分野では映画・アニメの制作やミュージシャンの育成に、ハードウエア面では半導体の製造技術の磨き上げに集中し、両者を結合することによって新しい生き方の創出を目指しているとの印象を強くする。

 ただ、そうした取り組みが成果を発揮するためには、経営陣が世界経済の環境変化に迅速に、的確に対応できるか否かが問われる。経営陣が変化にうまく対応できれば、ソニーの選択と集中が相応の成果を上げることはできるだろう。同社の株価の上昇を見る限り、ソニーが強みを持ち、成長と収益拡大が見込まれる分野への選択と集中を進めることによってさらなる業績拡大が可能と期待する主要投資家は多いようだ。

 反対に、経営陣が環境変化への対応に遅れる、あるいは判断を誤ると、ソニーといえども成長力が弱まり、かなり厳しい状況を迎える可能性は否定できない。世界全体で脱炭素やエネルギー資源の高騰、新型コロナウイルスの感染再拡大による動線の不安定化を背景とする供給制約の問題など、ソニーを取り巻く不確定要素は増えている。加えて、コンテンツIP分野において米ネットフリックスの成長や、半導体分野では中国企業によるソフトウエア開発力の強化など、ソニーが選択と集中を進める分野での競争も激化している。

 現時点でソニーの取り組みがどのような成果をもたらすかを見通すことは難しい。そうした中ではあるが、同社の成長はわが国経済の再生に不可欠だ。同社が組織を一つにまとめてよりスピーディーに事業を運営する体制を整備し、市場の勝者になることを期待したい。