一帯一路への反発から
中国人殺害事件も多発

 一方、中国離れというものは、政治の世界だけでなく、近年は現地からの抵抗や反発の声として各地から聞こえてくる。

 たとえば、パキスタンでは7月、北西部カイバル・パクトゥンクア州で中国人技術者たちが乗るバスが谷に転落し多数が死亡した事件で、イスラム過激派「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の戦闘員が、爆発物を積んだ車両でバスに突っ込んだことを明らかにした。

 8月にも南西部グアダルで中国人が乗った車列に対する自爆テロが発生し、現地の反政府武装勢力「バルチスタン解放軍」が犯行声明を出した。パキスタンで一帯一路に反対する武装勢力による中国権益を狙った事件が断続的に発生している。

 また、アフリカのザンビアでは2020年6月、首都ルサカ郊外にあるマケニ市で、中国企業の中国人幹部3人が現地の従業員2人に殺害される事件が発生した。

 現地の情報によると、従業員たちは中国人幹部から不当な雇用条件を押し付けられ強い不満を抱いていたというが、マケニでは中国企業の不当な扱いに対して住民の不満が少なくなく、マケニの市長は中国企業に対して中国人のみの雇用はやめるべきだと主張したことがある。

 当然ながら、こういった抵抗や反発はパキスタンとザンビアだけに限らず、他の国々からも聞こえてくる。

 今年9月、米シンクタンクのウィリアム・アンド・メアリー大学のエイドデータ研究所が発表した報告によると、これまで中国が実施してきた一帯一路プロジェクトのうち、実に全体の35%で環境汚染や汚職、労働違反などの問題が発生し、マレーシアでは総額116億ドル、カザフスタンで15億ドル、ボリビアで10億ドルものプロジェクトが中止に追い込まれたという。そして、同研究所は、今後、一帯一路は失速すると結論付けた。

 習政権としては、欧米主要国との対立だけでなく、影響力を強化してきた中小国の中国離れを避けたいのが本音だろう。しかし、今後は反一帯一路の拡大で中国離れがさらに加速する可能性もあり、習政権は大きな課題を抱えているといえる。

(オオコシセキュリティコンサルタンツ アドバイザー/清和大学講師〈非常勤〉 和田大樹)