極論すれば、ある人にとっては嬉しい出来事も、別の人には、適応障害を発症するほどのストレスになる可能性があります。「ありとあらゆること」が、ストレスの原因になる可能性がある、といっていいと思います。

ストレスから距離を置くことが最優先

 前述の通り、ほとんどの適応障害の患者さんは、何がストレスとなって発症したのか自覚しています。例えば「上司の叱責が原因」だとわかっているなら、人事に相談して異動願を出す等の対処ができます。業務内容そのものがストレスなら、転職も選択肢のひとつでしょう。

 失恋の痛手を受けたとしても、時間の経過とともに、ストレスは和らいでいくものです。裏を返せば、原因となったストレスから距離がとれないと、根本的な治療は難しいといえます。薬物治療などで一度はよくなっても、そもそものストレッサーを取り除かない限り、再発する可能性が高いままです。

 例えば、パワハラ上司の叱責を長期間にわたり受け続けたことが発症の原因なのだとしたら、上司が替わるか、本人が異動しない限りは、ストレスは続いてしまいます。引き続き上司の隣で働き続けないといけない環境では、回復は期待できません。

 そのため現実問題として、職場でのストレスが発症の引き金になった場合では、「同じ職場環境で働きながら治す」のは難しいと思います。そこで出てくる有効な選択肢が「休職」です。物理的に職場から距離をとり、十分に休養すれば、少なくとも職場内のストレスを原因とする適応障害は、快方に向かいます。また、その間に会社側も環境改善に動くことができます。

 そのために私たち医師も「1~2カ月の休職を要する」「復職にさいしては配置転換の考慮を要する」といった内容の診断書を書くわけです。さまざまな事情から休職が無理なら、勤務時間の短縮をすすめる診断書を書くこともあります。具体的には、残業や深夜業務の禁止、時短勤務などです。

 なお、私が休職をすすめるケースでも最初は2週間~1カ月の短期間からです。その後は回復具合をみながら、復職するか、休職を続けるか検討します。