競争か共創か
一堂に会したSFプロトタイピングのキーパーソン

 もちろん偏見を持つ方が間違っているのであって、私たちの日常はすでにSF的事象に満ちている。インターネットも、スマートフォンも、生体認証も、人工知能も、民間人による宇宙飛行も、半世紀前の感覚では妄想と言って悪ければ夢や想像の領域に属するものだっただろう。現在の私たちが、50年前から見た夢や想像の世界に生きているのならば、50年後の未来に現在の夢や想像が実現していないわけはない。「SF思考」とは、そのような信念に支えられた新しいものの見方であり、新しい物や事の創り出し方であると要約できると思う。

 ご都合主義的でパターン化された考え方や行動に対する「それって漫画だよね」という言い回しが、日本の漫画作品のクオリティーがあまりにも向上したことで現実から遊離した死んだ慣用句になったのと同じように、「それってSFみたいだね」という言い回しも早晩死句になるのだろうと、丸の内ブックフェスの「SFは最強のビジネススキルである『SFプロトタイピングの力』」と題されたトークショーを見て思った。

 情報を整理すると、まずこの6月に『SFプロトタイピング SFからイノベーションを生み出す新戦略』という本が早川書房から出て、翌7月に『未来は予測するものではなく創造するものである 考える自由を取り戻すための〈SF思考〉』が筑摩書房から、『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』がダイヤモンド社から立て続けに出版された。10月23日に東京・丸ビルのイベントスペース、マルキューブで開催されたトークショーに出演されたのは、「SFプロトタイピング」「SF思考」をテーマにしたそれらの3冊の本に関わられた方々だった。

 この3冊は著者や監修者などが相互に重なっている。『SFプロトタイピング』の監修・編著者である科学文化作家・応用文学者の宮本道人氏は『SF思考』の編著者であり、『未来は予測するものではなく~』の著者であるSF作家でコンサルタントの樋口恭介氏は、『SFプロトタイピング』では座談会の話者として登場する。また、『SFプロトタイピング』の編著者である筑波大学のAI研究者・大澤博隆氏は、『SF思考』の監修を務めている。さらに、『SFプロトタイピング』の編著者である美学者・批評家・SF研究者の難波優輝氏と、『SFプロトタイピング』での座談会の話者であり、『SF思考』の編著者である三菱総合研究所の藤本敦也氏を加えた5人がこの日のトークショーのスピーカーであった。

 情報を整理したつもりがむしろ話が複雑になってしまったが、簡単に言えば、「SFプロトタイピング」という新しい思考と行動をテーマにした本がほぼ同時に3冊出て、SFプロトタイピングシーンには5人のキーパーソンがいるということである。その5人のキーパーソンたちがリアルとリモートで一堂に会したのがこの日のトークショーだった。