仕事に悩む君へ はたらく哲学佐藤優氏の著書『仕事に悩む君へ はたらく哲学』(マガジンハウス)

シマオ:ちょっとまた難しくなってきました……。

佐藤:難しいですよね。とりあえずここでは、本当は自分のものだったはずのものが、 なぜか自分のものじゃないみたいによそよそしく感じられることがあることを「疎外」と呼ぶ、といったくらいに捉えておいてください。マルクスは、この「疎外」という言葉を使って、本来「働くこと」は人間にとって本質的なものであるはずなのに、資本主義社会における賃金労働では、他人のためのもの作りとなってしまい、やりがいの感じられない、よそよそしいものになっていると指摘したんです。

シマオ:僕もそう感じることがあります。僕がやってることなんて、会社の仕事のごく 一部だし、仮にいなくなっても別の誰かがやるだけなんだろうな、って。

佐藤:そういう意味では、大企業の方が孤独を感じやすく、中小企業の方が孤独を感じにくいかもしれません。小さな会社であれば、社員がお互いのことをよく知っています。誕生日を祝ったり、子どもが受験で「入り用」であれば社長が多少の融通はしてくれたりするかもしれない。そこまで牧歌的でなくても、顔が見えるというのは安心感を抱くための大切な条件になります。

シマオ:社員全員の顔を知っているくらいの規模が、人を安心させるってことですね。

佐藤:理想像かもしれないけれど、規模の問題は案外重要なことです。もちろん、大企業の方が給与は高いことが多いですし、中小企業の密接な人間関係は重く感じられることもあるかもしれませんから、どちらも一長一短というところです。