アップル製品の独自チップ化は必然だった

 一言で言えばアップルは、自社製品に関わるすべてをコントロールしたい企業である。そうしなければ、自分たちが理想と思える製品を作れず、消費者に対して優れたユーザー体験を提供することなどできないと考えている。

 そのため同社は、早くからOSと純正アプリ(ソフトウエア)、そしてハードウエアを統合的に開発する道を選び、2003年のiTunes Music Store(現iTunes Store)の開設によって、そこにサービス関連ビジネスも加わった。

iPhone 4と初代iPadに搭載されたApple A4 SoC。すべてはここから始まった Photo: AppleiPhone 4と初代iPadに搭載されたApple A4 SoC。すべてはここから始まった Photo:Apple

 一方でアップルは、特にCPUの開発動向に振り回されてきた企業でもある。同社の基礎を築いたApple IとIIでは、モトローラの6800系CPUを採用したかったものの高価過ぎ、コストパフォーマンスの高さでモステクノロジーの「MOS 6502」という8ビットCPUが選ばれた。1983年のLISAと1984年の初代Macintoshでは、グラフィック性能の高さなどを理由にMotorola 6800の16ビット版である68000系CPUが採用されたが、その開発ロードマップが頭打ちとなったことから、1994年にまったく異なるRISCアーキテクチャーのPowerPCへと乗り換えざるを得なくなる。

PowerPC、インテル製CPUを経てたどり着いたのがMシリーズ

 PowerPCは、IBMのPowerアーキテクチャーをベースに、アップルとモトローラも協力して開発されたCPUで、高性能でありながら低コスト・低消費電力だった。しかし、採用メーカーが限られて先行きが不安定となったことにより、アップルは再度、アーキテクチャーの異なるインテル系プロセッサに乗り換える決断をし、2006年に最初のIntel Macがリリースされた。

 コンピューター業界において、ここまでアーキテクチャーの異なるCPUへの移行を2度も行いながら、1つの製品ラインを維持できたことは奇跡に近いが、これ以外にもCPUメーカーの開発スケジュールの都合で新製品の発表が遅れたり、クロック周波数を下げて出荷せざるを得なくなるなど、アップルは半導体の外部調達絡みの辛酸を舐め続けてきたのである。

 そして、インテル製CPUにも発熱の大きさや、性能向上のための製造プロセスの微細化に関する問題が顕在化し、アップルはMacintoshラインの3度目のアーキテクチャー変更に踏み切ってARMベースのMシリーズSoCへの移行を進めることにした。

Aチップで培ったノウハウを投入して開発されたMシリーズチップ。驚異的なワットあたりのパフォーマンスを叩き出す Photo:AppleAチップで培ったノウハウを投入して開発されたMシリーズチップ。驚異的なワットあたりのパフォーマンスを叩き出す Photo:Apple