(1)繰り下げ中は加給年金等を受け取れない
 一定の条件はあるものの、夫が65歳になった時点で妻が年下の場合、妻が65歳になるまでは「加給年金」を受給できる。加給年金とは、配偶者や子どもがいる人に支払われる年金版の家族手当のようなもの、と考えて良い。これは夫と妻の立場が逆の場合でも同様である。

 金額は年間で39万円ほどだが、夫(妻)が年金を繰り下げている期間は、この加給年金が支給されない。ただ、加給年金が支給されるのはあくまでも老齢厚生年金に対してなので、厚生年金は繰り下げをせず、基礎年金分だけを繰り下げすることもできる。年の差婚の場合、「39万円×年齢差」が大きいようであれば、こういうやり方も検討すれば良いだろう。

(2)42%がまるまる増えるわけではない
 70歳まで繰り下げをすると65歳からの受給額に比べて42%増額される。ところがこれによって年収が増えることになるので、税金や社会保険料も同様に増える。したがって、増額分の42%がまるまる自分の懐に入るわけではない。

 では税金等を抜いた実収入はどれぐらいかというと、これは他の収入にもよるので一概には言えないが、およそ1割か2割ぐらいは税金等で減少するため、手取りベースでは36~38%ぐらいの増加にとどまるだろう。

(3)遺族厚生年金は増えない
 妻が長らく専業主婦だった場合は、夫が死んだ後、遺族厚生年金を受けることになる。しかし、その場合は夫が65歳時点での年金額をベースにするため、繰り下げをしていても増えることはない。

 このように繰り下げの場合に注意しておくべきことはあるが、それでも人生の後半部分に増えた年金を生涯受け取り続けることができる安心感は大きい。最初から「早くもらった方が得だ」と考えるのではなく、自分の状況に合わせて「繰り下げ」も選択肢として考えた方が良いのではないだろうか。