遺言書は2通作ってもいい。「合法的」相続ノウハウとは?

――本づくりを進める中で、「さすがにここまでぶっちゃけるのはちょっと……」とお蔵入りになった項目や、「これはぶっちゃけすぎかな」と表現を和らげた項目はなかったのですか?

橘:お蔵入りになった項目はないのですが、表現を和らげた項目は1つあります。

――どの項目ですか?

橘:「プロにすべてを任せる遺言信託とは?」という項目です。遺言信託とは、銀行や信託銀行が「遺言執行者」として、遺言書の作成から保管、遺言の執行までをサポートするサービスです。

――どのあたりを和らげたのですか?

橘:もともとこの項目の原稿は、見出しも本文も、遺言信託の「デメリット」を強調した過激なものだったのですが、弊社内で白熱した議論が行われた末、オブラートに包んだ表現に変更したんですよ。「金融機関を敵に回しそうな表現でよくない」という声もあれば、「遺言信託にはメリットもあり、そのメリットを得ようと納得して契約した人もいる。その人を傷つけることにならないか」という声もありました。いずれも社員の言う通りだと思いましたね。

――なるほど。

橘:でも、やはり遺言信託は最低でも100万円以上かかることが見込まれ、費用面が大きなネックとなるのは事実です。そこで私は、相談に来てくれた人には、遺言信託の報酬を半減させることができる「ある方法」を伝えることがあります。

――その方法、教えていただけませんか?

橘:いいですよ。ただ、ここまでくるともう『ぶっちゃけ相続』ですね(笑)実は「遺言書を2つ作る」という方法なんです。

――そんなことをしていいんですか!?

橘:いいんです。たとえば「預金」と「不動産」という財産を持っている人の場合、「預金についての遺言書」と、「不動産についての遺言書」と2つの遺言書を作ることができます。この2つは、互いに内容が重複しないので、両方とも遺言書としての効力を発揮します。一般的には、遺言書を作る際、「預金」も「不動産」も、1つの遺言書にまるっとまとめようとしますよね?

――はい、そのイメージでした。

橘:この場合、遺言信託では「預金」と「不動産」をまるっとまとめた金額に、一定のパーセンテージを掛けた金額で報酬が決まります。でも実は、いざ相続が起きたとき、「不動産」にかかる遺言執行は、とても簡単なんです。司法書士に登記を依頼するだけですからね。

――依頼するだけなら簡単ですね!

橘:「不動産についての遺言書」は自力で遺言執行を行い、「預金についての遺言書」だけ、遺言信託する。すると遺言信託の報酬は「預金」分だけ払えばよくなるわけです。報酬を大きく節約することができるんですね。

――教えてくださってありがとうございます。橘先生は税に関する最新情報を、日々、どのように仕入れているのですか?

橘:「税務通信」(税務研究会)という税務専門誌を読むほか、専門家同士の情報交換も大切にしています。弁護士や元裁判官の方など、他分野の専門家の生の声を聞くと、勉強になることが多くあるんですよ。