発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書の「料理の原理原則」を使ったレシピをお伝えします。
基本:肉をダシで煮るとうまい。超簡単な「基本のニボシ豚」
煮豚ってうまいですよね。とりあえず、豚を大量のニボシといい感じに煮ると、豚のインパクトの乗ったニボシダシとニボシの旨味の染みた豚がアウトプットされる料理をご紹介します。
作り方はめっちゃ簡単で、鍋に豚肩のカタマリ投げ込んでしばらく煮て、「そろそろだな」と感じたらニボシドカっと入れてあとは火加減一本勝負です。その後火を止め半日くらい放置するとなおよし。タレはまぁなんでもいいけど、酢とゴマ油が合うよ。
めちゃめちゃいい加減に作ってますが、それでもニボシダシの染みた豚がまずかろうはずもなく。超うめえです。
煮込んだ鍋にはタレ入れたらなんでもうまいダシが残ります(ニボシダシはとってもおいしいのに豚のコクまで入ってますからね)。これでうどんや冷や麦なんか食うとめっちゃうまい。敢えて「野菜」って手もあります。一番よく合うのは小松菜かもしれない。これがまた、肉とニボシのダシに小松菜のさわやかな歯ごたえと甘味が乗ってうまいですね。これはもう、鍋1個あれば誰でも作れるレシピなので本当にオススメ。豚は肩ロースあたりのほどよく筋や脂のある肉がよく合います。「ロース」は避けた方がいいですね。
さて、そんなわけで「豚はダシで煮るとうまい」ことがわかってきました。この「ニボシ豚」は1年くらい前に作ったレシピなんですが、本日はその先にある料理を色々とご紹介させていただきます。
応用① :肉をスープで煮る「トロチャーシュー」
この「肉をダシで煮る」調理法は、一昔前のラーメンにおける基本的なレシピでした。現代は「おいしいチャーシュー」が出てきて当たり前の時代になりましたが、一昔前のラーメンにおいて「チャーシュー」はダシ材も兼ねていたのです。「チャーシューがいっぱい乗っていてうれしいけど、すっかりダシガラで味気ない」ラーメン屋さん、昔は結構ありましたよね。最近はすっかり見かけなくなりましたが。
先述した「ニボシ豚」は古典的なラーメンレシピをちょっといじったもので、「豚からダシは出ちゃうけど、代わりにニボシのダシが豚に入り込んでうまい、ニボシダシだけでもうまいのにそこに豚が加わったスープもまずいわけがない」という考え方です。豚とニボシ、要するに魚介トンコツですからね。うまいに決まってる。
そこで今度は「スープで豚を煮て」みましょう。一昔のラーメン屋さんスタイルではなく、「単体で十分濃い白濁スープ(ダシ材は鶏ガラとトンコツ」です。これもまた、ニボシ豚同様に「スープに肉を投げ込むだけ」です。もちろん、スープにも豚のうまみが出ておいしくなります。
仕上がりはこんな感じ。味付けはもちろんさっきの「ニボシ豚」と同じようにタレをかけてもいいですが、オススメは「塩と味の素をかけて6時間くらい寝かす」です。しっとりと味がしみてとても美味。ラーメン屋よりのジャンクフードですからね。やはり味の素でビシっと味をキメてやった方がうまいと僕は思います。別に塩だけでもいいんですけどね。
うまいうまい、これはうまい。スープは各自お好みのものをご用意いただければと思います。「ニボシダシで煮る」が「白濁スープで煮る」に代わっただけですので、本質的には同じ料理ですね。「カツオと昆布の合わせダシ」とかで煮てももちろんうまいと思います。とろける食感がいいですね。大事なのは「冷えてから切る」ことです。アツアツのうちは、下手に切ろうとすると最悪崩壊しちゃいますので。脂身が冷えてもとろけてうまい。
応用② :肉を煮る前に漬け込む「肉っぽいチャーシュー」
これは、豚を砂糖と塩で漬けこんでキッチンペーパーとラップで巻き、3日ほど熟成させたものです。塩と砂糖の分量はヒミツ。これをやると、豚の食感はしっかりしてうまみが抜けにくくなる。代わりに「トロっととろける」感じはなくなりますが、「スープのうまさを吸い込みつつも、肉らしくてうまい」チャーシューが作れます(チャーシューは焼き豚であって煮豚ではないという真っ当なツッコミは今日はカンベンしてください。ラーメン屋のチャーシューも焼いてるところの方が少ないですし…)
天ぷら鍋は煮込み料理にも便利。この白濁コラーゲンスープは飛び散ると掃除が大変なので…。1時間半ほど煮込みまして…。
出来たー!!! これはうまそう。
みてくださいこの仕上がり。使った煮込みスープと肉は「とろけるチャーシュー」全く同じもので、煮込み時間にも大差はありません。「煮る前に漬けこむ」の一手だけで、まるで違う料理に仕上がる、これが料理の面白いところです。豚の温度は85度を越えるところまで加熱しているので、この赤は生肉の色ではありません。料理が好きな人は「低温調理か?」と思ったかもしれませんが、違います。普通にガンガン煮込んでいます。うまそうな良い色でしょう。
実は、以前もこちらで「鶏肉をお鍋にするなら、一晩塩に漬けるとすごくおいしい」みたいな料理をご紹介させていただきましたが、肉は「漬ける」工程一つでここまで仕上がりが変わります。今回は砂糖も使っていますけどね。
白濁スープを使ったりちょっと難しい工程も含まれていますが、本日僕が伝えたいことはたった二つです。
・肉はダシで煮るとうまい、残ったダシもうまい
・肉は煮る前に漬けこみ工程を加えると、普通に煮るのと全く違う仕上がりになる。肉をおいしくしたいなら、「漬け込み」は試す価値がある
冒頭のニボシ豚も、「もっと肉らしくしたい」なら、一度砂糖と塩で漬けこんでから煮るといいでしょう。逆に、トロけて崩れる食感が欲しいなら下拵えなしでいきなりダシに放り込めばいいのです。普段料理をされない方はとりあえず、ニボシと肩ロースを買って来て、肉を1時間くらい煮たところでニボシ突っ込んでみましょう。「おお、こりゃうまい!」って実感が出ると料理は楽しくなりますので。
料理は人生を楽しくしてくれます。うまいもん食って、生きていきましょう。