昨今の日本でさかんに話題にされている“自己肯定感”には、自己満足と言ってもよいような側面が強いように思われます。心理学者フェルドマンも、自尊感情を自分自身の価値、評価、重要性などの総合的な査定であると定義したうえで、向上心と自信の程度の双方を反映するものとしています。

 ここであらためて強調しておきたいのは、自己肯定感はただ高ければいいというようなものではないということ、そして自己肯定感について考える際には向上心を考慮する必要があるということです。

今の自分に満足すれば自己肯定感は高まるのか

 自己肯定感を高めるには、自分に対する要求水準を下げればいい。そうすれば自分に対する満足度が上がる。そのような安易なアドバイスを耳にすることがありますが、それでは真の自己肯定感が高まることはないでしょう。

 たしかに要求水準を下げれば、満足度は上がります。たとえば、野球選手がホームランを15本打ったとして、自分なりの目標が20本だと満足できないですが、目標が10本なら十分満足できます。

 でも、ほんとうにそれで自己肯定感が高まるでしょうか。ここで注目したいのは、児童期には多くの子が自己肯定しているのに、思春期になると自己肯定する子が一気に少なくなるという傾向です。

 たとえば、ちょっと古いデータではありますが、「自分に満足」という子の比率は、小学5年生では57.5%と過半数を占めるのに、中学1年生では30.0%と半分くらいに低下し、中学3年生では20.5%とさらに低下することが示されています。「自分が好き」という子の比率も、小学5年生では54.8%と過半数を占めるのに、中学1年生では45%とやや低下し、中学3年生になると32.5%とさらに低下しています。