究極的には千差万別の価値観で一人ひとり異なるが、今回は褒め方のポイントを、職業の性質の例として「士農工商」と区分けして考えてみよう。ただし、士は政治家と軍人、役人に分かれる。

 なお、これはあくまでタイプ、気質の違いを示したもので、もちろんタイプ間に優劣はない。業界や役職に関係なく当てはまり、たとえば、現在農業関連に従事しているからといって、必ずしもタイプが農民とは限らない。もちろんこういうタイプの人はこういう仕事やこういうポジションに向いているということはある。

 そして、このタイプは固定ではなく、ひとりが複数の顔を持つこともあるし、あるポジションに就くことで、本来自分の資質でなかったものが身に付くこともあるから、役職や業種に惑わされてはならない。私は基本的には職人タイプだが、会社の経営者としては、商人タイプの考え方をしなければならないこともあるし、頼まれれば、役人タイプの仮面をかぶって現場を仕切ることもある。

職業タイプ別に見極める
「褒められたいポイント」

【政治家タイプ】
「政界には、肝っ玉と直感と、正しい瞬間に断行する決断力以外には、何もない」。

 名著『指導者とは』で、リチャード・ニクソンは語る。

 だから、政治家タイプを褒めるときのポイントはその人が、全体(その人が所属している団体や地域)の利益や名誉を考えて取った意思決定を対象とするのが適当だ。その人の決断力、交渉力、指導力、影響力にひたすら言及する。他の人から見れば、ばかみたいなことかもしれなくても、そこをたたえれば間違いない。また、こういう人は組織で偉くなってもらうべきだし、そういう人が自分の名誉と全体の利益を懸けて、つかさどる事業や役割にコミットしてくれることで組織は良い方向へ動く。

◆政治家タイプを褒めるときのキラーフレーズ:
「その決断はすごい」「視野が高く広い」「歴史的な視点を踏まえている」「よくそのタイミングだとわかったね」「交渉カードの使い方がすごい」「あの一言で皆が納得した」「同じ言葉でもあなたが言うと重みが違う」

【軍人タイプ】
 一見政治家とも似ているようだが、軍人にとって大事なのは戦いに勝つことであり、結果が良ければ負けてもいいと思う政治家とは勝敗への執着という点が違う。軍人はとにかく「必勝」なのである。戦時中の大日本帝国陸軍で使っていた「作戦要務令」という軍令がある。そこの一番初めに、

 第一 軍の主とする所は戦闘なり故に百事皆戦闘を以って基準とすべし而して戦闘一般の目的は敵を圧倒殲滅して迅速に戦捷を獲得するに在り(中略)必勝の信念、軍紀、独断専行、攻撃精神

 と書かれている。これが軍人タイプが常に念頭に置いている行動原理である。

 軍人にとっては何をおいても戦闘が大事で、その目的は敵を徹底的にやっつけて勝つことというのである。戦い、勝利、そして軍紀を守ることを非常に重んじている。1人でもルールから外れた行動を取ると、軍紀が乱れるので、ルールを厳密に適用する。決められたなかで、各自が判断して動く。軍といっても、相手の裏をかく戦術を考えるような参謀はわずかで、結局99%が白兵戦であり、その戦闘のフロントでは勇敢で強いことが大事である。その点で言えば、精神力や根性も評価すべきポイントである。さしずめ体育会系というイメージで語られる雰囲気といえば良いだろうか。

◆軍人タイプを褒めるときのキラーフレーズ:
「なんと素晴らしい勇気だ」「一糸乱れぬ統制をつくり出した」「苦しいところを粘り強くよく耐えた」「あそこで乾坤一擲の戦術を実行できたのは、すごい精神力だ」