【役人タイプ】
彼らにとって、命令や遂行すべき業務の中身は問題ではない。Whatではなく、How、すなわち、何をやるかより、どのように完璧にやるかのほうが大事である。
『職業としての政治』で、マックス・ヴェーバーはこのように述べている。
官吏にとっては、自分の上級官庁が、――自分の意見具申にもかかわらず―――自分には間違っていると思われる命令に固執する場合、それを、命令者の責任において誠実かつ正確に―――あたかもそれが彼自身の信念に合致しているかのように――――執行できることが名誉である。
このタイプには、目的やゴールさえ決めてもらえば、あとは自分が計画し、段取りをして、全部仕切りたいという人が多い。誰かが介在することで、自分の完璧な計画が狂うことをとても嫌がる。だからこういう人には全部お任せするのが良いし、その計画の進捗が予定通りであること、事前の準備が抜かりなかったこと、納期を守ったこと、仕切りがうまかったことなどを褒めると効くのである。
◆役人タイプを褒めるときのキラーフレーズ:
「ミスは一つもなく完璧でした」「素晴らしい準備のおかげで不測の事態にもなんなく対応できた」「仕切りは万全、私は何も考えないでやるだけでした」「予算きっちり。納期きっちりでしたね」
【農民タイプ】
勤勉さを旨とし、真面目に働けば、その分もうかってみんなが幸せになると考える。村単位で助け合い、個人がひとりだけ頑張るのではなく、みんなで協力しあう、助け合うという農民的価値観を持っている。日本の製造業が成功したのはまさにこのマインドがあったからだ。
リクルートマネジメントソリューションズ・組織行動研究所所長の古野庸一氏によれば、日本人は勤勉になったというが、それは利己的な理由によるものだという。18世紀から検地が行われなくなった。収穫を増やしても、その分年貢が増えるわけではないため、増やせば増やしただけ実質の年貢率は減少していき、「たてまえとしては、 五公五民や六公四民といっていましたが、実質の年貢率は10~20%にすぎない村も多かったようです。農業経営は家族単位で行われましたが、自治は村単位で行われ、年貢も村単位でした。薪や肥料の資源がある里山や水の管理が、村単位で行われたとすると、コミュニティは相応に形成されたと考えられます」。同社HPのコラムにおいて述べている。
つまり、働けばその分自分の実入りが良くなるので、勤勉に働くのが江戸時代以降の日本の農民だというのである。幕末に力を持っていた藩はこのように実質の年貢率の低いところばかりだった。
NHKに『プロジェクトX』という日本のものづくりをたたえるドキュメンタリー番組があったが、まさしくチームワークの勝利を尊ぶ気風である。オリンピックやワールドカップで「ワンチーム」として活躍することやそれを愛でる気風もこのタイプの延長線上にある。それは半面、同調圧力の強い場ということもできる。ともあれ、褒めるべきポイントはみんなで努力した、一丸となってやったことが実を結んだ、チームに貢献した、という点である。
◆農民タイプを褒めるときのキラーフレーズ:
「チームワークの勝利だね」「あなたの貢献はみんな知っているよ」「着実によくなってきている」「こんなにたくさんできたね」「日々の努力が実を結んだね」「○○で工夫したんだね」
【職人タイプ】
この手の人はある意味では褒めるのが厄介である。自分でいいと思っていないことが結果的に成功した場合、それを褒めても機嫌を損ねるからである。自分との戦いに勝つことや自己が向上できたことをアウトプットより重んじる。とんちんかんなことを言われると冷淡になるか激怒するかもしれない代わりに、的を射れば、「よくわかったな、実はそれには続きがあって」といくらでも胸襟を開いてくれる。
たとえば、イチロー選手が、自分では凡庸なスイングの結果だと思っているであろうヒットに対して、「素晴らしいヒットでしたね」と言えば不機嫌になるだろう。「セカンドゴロでしたが、新境地に入りましたね」などと言うと(当たっていれば)喜ぶかもしれない。
「職人気質」(しょくにんかたぎ)という言葉がある。これは「自分の技術を探求し、また自信を持ち、金銭や時間的制約などのために自分の意志を曲げたり妥協したりすることを嫌い、納得のいく仕事だけをする傾向」、「いったん引き受けた仕事は利益を度外視してでも技術を尽くして仕上げる傾向」などを指す(ウィキペディア)。
褒める側にその人が固執している違いがわかっているかどうかが大事なのであり、ある意味で単なる自己満足ともいえる。褒めるポイントは、その本人がとても大事にしている、工夫していると思われるところについて言及することである。
◆職人タイプを褒めるときのキラーフレーズ:
「ここの○○の部分が○○のようにすごい。どうやればこんなことができたのか」「新境地に入ったね」「前の自分を超えられたね」「これは偉大な失敗だな。これで○○ができるようになった」