【商人タイプ】
商人はリスクテイクをする目利き力がなければ務まらない。リスクというと、マイナス面を思い浮かべることが多いかもしれないが、リスクは悪いことばかりではない。リスクを知っている、リスクを測れるというのは、その人の情報力の確かさを示す。英語では calculated risk という言い方をよくするが、試算し尽くして、取れるべきリスクを取るというのは、商人としてもっとも重要な資質なのである。
ソフトバンクの孫正義会長はおそらく表面的に、短期的に損を出したように見えても、二の手、三の手を打っており、毀誉褒貶までも含めて「リスク」として把握した上で、企業活動を行い、発言している商人タイプの典型的人物だろう。
私は以前この連載で、下記のように述べた。
「商人の本質は『賭け』(リスクテイク)にある。売れるかどうかわからない商品を作らせたり、仕入れるにはお金がいる。店を出すにも広告を出すにもお金がいる。お金を調達し、可能性のあるところに賭ける。ダメなときは損切りして逃げる。そして結果(利益)を残す。結果が出るから次の賭けができる」(組織の病気:https://diamond.jp/articles/-/75931)
そしてリスクについては言葉の由来を知っておかなければ、商人タイプの本質を取り違えるかもしれない。リスク(risk)は「リズカーレ(risicare)」がその語源だとされ、もともとは船乗りのことである。彼らが一獲千金を狙って海賊のいる海上貿易に乗り出したことから、「勇気を持って試みる」という意味で用いられるようになったといわれている。
以上を踏まえれば、商人タイプには、その人の先見性について理解を示したり、リスクを取ったりすることに対する賛辞が効くだろう。
◆商人タイプを褒めるときのキラーフレーズ:
「その目利き力と先見性はすごい」「よく勝負したね。その胆力はすごい」「君の情報力には脱帽するよ」「その危機察知能力は素晴らしいね」「計算され尽くしたリスクの取り方だね」
人のタイプによって、何を褒め言葉と捉えるかは、かようにまったく異なる。職人タイプの人に、「君のチームのプロジェクトがコンペで勝てたんだって。すごいね」と言っても、「ええ、良かったです」くらいの他人事のようなにべもない返事が返ってくるだけである。ここは、「あのコンペのアイデアは、○○が卓越している」と言うべきなのだ。
逆に軍人タイプの人に、コンペのアイデアのオリジナリティーについて敬意を表しても、「勝てて良かったです」と軽くいなされるだけである。コンペに向けて各人が確実に任された業務を一糸乱れず着実に遂行したことを褒めるほうがよほど良い。
自分の褒め言葉が相手の心を打たなかったとき、相手の褒め言葉が自分に空虚に聞こえるとき、なぜそうなるのかを考えると、相手と自分との価値観の相違がわかり、相手のことがわかる。これをやらずして、やみくもに褒めているうちはいつまでたっても人の心をつかめない。逆にこのような方法を適切に使いこなせるようになれば、実績と関係なく人に気に入られ、人に慕われることにもなるだろう。
ちなみに、私はこのような方法を巧みに用い、天才的に人の心をつかむ優秀なリーダーには何人もお目にかかってその極意を聞いてきたが、きわめて残念なことに、自分自身はまったく使いこなせていない。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)