見える化→カイゼン→成果(標準化)→やりがい→カイゼン
磯谷 「生産性の向上」という視点から、「方策」の使い方のあるべき姿を描くと、このようになると思う。
・良い会社(光る会社)
見える化→カイゼン→成果(標準化)→やりがい→カイゼン…カイゼン→成果もの語り→会社の生長・発展→一層のやりがい→会社・従業員の幸せ
・(その一方で)多くの会社
見える化→事例づくり→トップは満足
まず 「見える化」して「カイゼン」を実施し、成果を出させる。それを各業務の標準とし、「カイゼン」を行った従業員はやりがいを感じる。さらに「カイゼン」を重ねれば、やがて大きな成果が得られるので、場を設けて、「もの語り」として自慢させる。これが会社の成長と発展につながり、会社と従業員の幸せにもつながる。ここまで持って行かないかんと思うんだけど。まあ、多くの会社は「見える化」だけでね。見えるようにしただけで、満足してしまっている。
稲田 人の成長と幸せが中心に置かれていますね。「見える化」すること自体は、全てのスタート地点に立つことですから、大きな意味があるのは間違いないです。しかし主体は人であり、「見える化」された事実を読み込み、「意味合い」をとらえて彼らがアクションにつなげることが本質であり、そもそも、そのための「見える化」なのですが。
磯谷 大野さんが言う「なぜなぜ5回」を全然やってない。大野さんなんか「なぜなぜ5回」を常にやれと。それが全然やれとらんからね。それから工場内の置き場もね、きちっと決まってないし。それから、機械の稼働灯もむちゃくちゃな工場がある。赤ランプをつけるべきところに付けないだけではなく、黄だとか青だとかのランプを、メーカーに言われるままにつけとるだけでね。そういう現場を見ると、本当に嘆かわしい。
稲田 ものづくりの現場を軸に話をしていただいているのですが、ものづくり以外の業務は、それ以上に放置されたまま、最適化がすすめられていないのが世の現実です。企業改革の現場の視点からすれば、そこが、業績が低迷している多くの企業に共通する、根にある問題です。
磯谷 そうだろうね。私が訪問する、ものづくりの現場で言えば、さっきの大野さんの指摘のような基本が全然やれておらんのにね。その上のレベルの、金ばかりかける方策を導入し、なにかやった気になっている。
稲田 大振りの施策が横行してしまう原因のひとつが、米国式経営の手法レベルの物真似の蔓延でしょう。日本で語られる経営ツールや組織論のほとんどが米国発です。その米国の経営スタイルは、経営が責任を持って指示・命令するトップダウンであり、基本的に、日本の文化のもとでうまくいく組織運営とはだいぶ異なります。
磯谷 うん。
稲田 例えば米国企業で、仮に、ある本部の部署が「方策」としてITの導入を推進しても、経営にどれだけの貢献があったか、投資に見合う実際の効果があったのかについては、導入責任者であるマネジャーに対して、直接、COO、あるいはCEOから問われます。
一方、日本企業でのIT導入では、現場から距離感のある本部の部署は、本音では、「予算をとったから、DXを検討し、導入せよ」とトップから言われたからと動いただけ、となりかねません。そして導入が完了したら自部署の仕事は終わり。トップも自分から言いだした手前、責任を追及せずといった感じになるのでしょう。
磯谷 上のものがちゃんと見ていれば、みな、自分で考えながら結果が得られるように取り組むものだけどね。
稲田 日本の企業には現場も含めて、どこの職場でも、自ら業務の最適化を考え、「カイゼン」を伴なった業務のできる、レベルの高い人材がたくさんいます。しかし日本企業の多くが、米国式のトップダウンの組織運営が正しいのだとして、上っ面だけ米国式を真似た組織運営をしていて、様々な機能不全を招く、大きな勘違いが起きているように思います。
磯谷 私は、役割と使命感のある、「心」を持ったきめ細かいトップダウンと、やる気をおこさせるボトムアップが大事だと思っている。
稲田 いま、おっしゃられた、「『心』を持ったきめ細かいトップダウン」はとてもいい表現ですね。
磯谷 トップダウンは方針管理で、しっかりと一人一人まで展開すること。すなわちトップは、「売上を増せ」「利益を上げよ」と言いっぱなしではなく、部長と相談して、その達成のための「方策」を考える。そして部長は、課長と相談してその達成のための実施事項を考える。課長は現場の職制と相談して、配下の一人一人の実施事項まで展開する。そして毎年、反省と次の対策をして、成果をスパイラルアップ(年次のPDCAを廻すたびに、毎年、経営視点を持って業務精度のレベルを上げること)させていくことが大切だな。
稲田 おっしゃるような形で組織全体を連動させることは、大きくなった組織の方向性を前向きにそろえて動かし、成長させるためのトップのミッション(使命)とも言えますね。
磯谷 それと同時に、ボトムアップの自主活動も大切。当社では、QCサークル、生産性を上げるトヨタ自主研、自主保全などの、組織の上下さまざまなレベルでの小集団活動と、その発表の場の工夫。個々の提案制度、表彰制度の設置、「カイゼン」事例集、「カイゼン」ものがたり集、成果の教科書の作成などでやる気を起こさせることに努力している。またこのことは、実際の打ち手を知ることができ、具体的なアイデアを出すヒントとなるイメージの共有にもなっている。
稲田 本社、本部の企画側って、とかく、「方策」と言いますかスキームを発信することで、仕事が済んだ気になります。しかし、そもそもやる気のある現場側が精度高く業務に取り組み、組織的なボトムアップができるように、それこそ「方策」を本社、本部が整え、それを経営側が嬉しいと思う「心」をもって、応援し続けるという感じでしょうか。
磯谷 そのような感じだね。また、IT、インフォメーション・テクノロジーは、企業にとって有効な「方策」なのだが、全員のやる気を創成する、ICT、つまりインフォメーション・コミュニケーション・テクノロジーがなければ、いくら金をかけても価値はないことになってしまうと思う。
稲田 人によるコミュニケーションが主のはずなのですが、いつの間にか、道具立ての方が主役のように扱われる傾向があります。これは、「米国の(有名な)トップ企業はこれを導入しています」を売り文句にしたコンサルティング会社やITベンダーから言われたことを、そのまま鵜呑みにしてしまうから起きるのでしょう。確かにそれらの道具立ては有効でも、その導入は目的ではありません。また、その前に、やれば大きな効果が出ることがまだたくさん手つかずのまま、放置されているのに、つい、売り口上に幻惑されてしまうのでしょうね。
つづく